地元に愛される物流施設をつくりたい、
Landport横浜杉田の取り組み
2025年3月末、横浜市金沢区の地にLandport横浜杉田が誕生します。この物流施設は野村不動産とIHIがタッグを組み、それぞれの強みを活かす形で計画されました。両社がコラボレーションした結果、他に類を見ないユニークな仕様を実現することができています。施設のスペックや自動倉庫の魅力については、既出の記事で存分に紹介しているので、そちらをご覧ください。
Landport横浜杉田、未来を見据えた物流課題への挑戦【前編】
Landport横浜杉田、先進設備で物流課題に挑む【後編】
その独自性はもとより、地元とのつながりを重視していることもLandport横浜杉田の大きな特徴の一つ。今回はLOGISTICS TODAY編集長の赤澤裕介氏が普段なかなか訪れることができない建設現場を訪れ、両社の建築担当者に直接話を聞いてもらいました。
そこで明らかになったのは、地元にコミットする野村不動産とIHIの熱い想い。それではインタビューの模様をお読みください。
野村の営業力とIHIの技術力がコラボ
赤澤裕介氏(LOGISTICS TODAY編集長)
今回は野村不動産の中村さんと髙木さん、IHIの須崎さんから話を伺います。これまでの取材からは、横浜杉田が地元の良い部分を取り入れている印象を受けました。もしかして皆さん、杉田のご出身なんですか(笑)。
<中央>株式会社IHI 社会基盤事業領域 都市開発SBU 事業企画推進グループ 須崎佑大氏。
<右>野村不動産株式会社 都市開発第二事業本部 建築部 推進一課 課長 中村雅治氏。
中村雅治氏 (野村不動産株式会社 都市開発第二事業本部 建築部 推進一課 課長)
私は生まれは京都なのですが、育ちは川崎です。川崎は著名なサッカー選手を輩出した地でもあるので、私もサッカーが好きで海外の試合などはよく観ます。妻と子どもたちはサッカーに興味がないので、少し寂しいです。
須崎佑大氏(株式会社IHI 社会基盤事業領域 都市開発SBU 事業企画推進グループ)
私は生まれも育ちも京都で、大学卒業まで向こうにいました。上京したタイミングでIHIに入社し、最初に携わったのがこの案件だったので、プロジェクトに対する思い入れは強いと思います。
赤澤氏
髙木さんの業界での経歴は?
髙木玲那(野村不動産株式会社 都市開発第二事業本部 建築部 推進一課)
私は去年入社したばかりなのですが、入社以来ずっと建築に携わらせていただいています。
赤澤氏
ところで今回、野村不動産とIHIのコラボレーションが実現するに至ったきっかけは何ですか?
須崎氏
横浜杉田における両社のコラボレーションが決まったのはちょうど私が入社した年の2019年です。この土地は、1937年から2019年までIHIが所有し、各種産業機械を製造する工場として利用していました。2019年に工場が閉鎖したタイミングで、跡地活用事業の提案依頼を複数社にさせて頂き、野村不動産を選出したことが発端になります。
赤澤氏
なるほど。だとするとIHIにとっては、この土地を通じて地元社会と長くつながってきた大切なものであったと推測できますね。野村不動産側から見て、土地を提供してくれたこと以外にIHIと協業することの意義はどこにあるのでしょう。
中村氏
当社の営業力・集客力と、IHIの技術力を初めて物流施設開発において組み合わせることができた点です。端的にいうと、IHIには自動倉庫のノウハウがある。当社の物流施設開発のノウハウと組み合わせることが、大きな強みになると考えたのです。
例えば衣料品や飲料は季節によって需要が変化し、在庫の数も大胆に増減します。テナント側からすると、在庫が多いときに合わせて倉庫の床を借りるのは非効率です。その点、Landport横浜杉田は一部レンタル式の自動倉庫を導入しているので、荷物が増えるタイミングだけ自動倉庫を借りることもできます。しかもパレット単位でのレンタルが可能で、小規模ニーズにも柔軟に対応します。収容能力にも余裕を持たせており、自動倉庫には最大で4,020のパレットを保管することができる予定です。
Landport横浜杉田が周辺地域に与えるインパクト
このようにして2社のコラボレーションが生み出すLandport横浜杉田は、半年後の2025年3月末に完成します。取材時、Landport横浜杉田は工事の真っ最中。まさに佳境に入ったともいえる、この物流施設の建築現場をのぞいてみましょう。
現場では高々と足場が組まれ、4階建ての倉庫をつなぐランプウェイはすでにほとんど完成している状態でした。特徴的なのは横幅の広さ。完成時には敷地面積約71,034平方メートル(約21,488坪)、延床面積163,483平方メートル(約49,453坪)にも及ぶ大規模倉庫になる予定です。倉庫本体の骨格もほぼ出来上がっており、遠方からでも巨大倉庫の規模感をうかがい知ることができました。周囲の建物と比べると、その大きさがより際立ちます。
これほどの規模になると、一般的には交通量の増加も懸念され、「嫌悪施設」と捉えられてしまうこともある物流施設。地域社会に与える影響も少なくありませんが、ここでIHIと野村不動産がコラボレーションすることで生み出される「オープン・シェア型物流施設」の真価を発揮します。
Landport横浜杉田は首都高湾岸線の杉田ICから680メートルの場所にあります。同IC付近には現在、ガソリンスタンドがありますが、給油のためにトラックが列をなし、渋滞が発生しています。
IHIと野村不動産は地元からの要望に応える形でガソリンスタンドを拡大移転。車の流れがスムーズになるようにICから遠ざけつつ、給油待ちの車両が敷地内で待機できるよう従来よりも敷地面積を拡張しました。また、Landport横浜杉田はトラックが周回できるつくりになっており、仮に荷待ちが発生しても路上にトラックを停める必要がありません。これらの取り組みは、地域社会のためにも”渋滞を発生させない”というIHIと野村不動産の覚悟が表現された一面です。
杉田梅に屋上菜園。地域に根ざした活動の全貌
今回のインタビューでは、話が進むにつれて地域に対する担当者の想いが鮮明になっていきました。ここからはLandport横浜杉田が考える、地域貢献・地域連携を詳しく紹介していきます。
杉田には「杉田梅」という歴史ある梅があります。こちらは品種改良を加えていない日本古来の梅で、その希少性から「幻の梅」とも呼ばれます。横浜市のふるさと納税の返礼品にも選ばれるなど、地元との結びつきが非常に深い樹といえるでしょう。
Landport横浜杉田にはこの杉田梅の成木が植えられるとともに、苗木も育成する計画があります。須崎氏も興奮気味に「すごくフルーティな香りがする梅」と話していました。
かつて杉田は多くの見物客が訪れる、梅の名所として知られていました。一時期は37,600本もの梅の木が植えられていたと伝えられ、その見事な咲っぷりは歌川広重の「武州杉田の梅林」にも描かれています。
2022年から行われている「杉田梅まつり」は、杉田梅林における往時の賑わいを取り戻すことを目的としたお祭りです。実際に杉田梅が植えられている妙法寺が会場になり、芸者の歌と踊りや獅子舞が披露されます。
<参考>
杉田梅まつり2024公式サイト
杉田梅まつりの様子(動画)
中村氏は「Landportに杉田梅を植えるのは地域連携の一環です。梅まつりの担当者の方と連携して少しずつ地域の仲間入りがしたいと思います」と話してくれました。地域の梅まつりと共に野村不動産とIHIが名を連ねる日も近いようです。
各種イベントの開催にも力を入れます。海が近く、周辺地域は津波の被害を受ける可能性があります。有事の際にはLandport横浜杉田が避難施設になることもあり、定期的な防災イベントも予定されています。計画段階であるとしながらも、須崎氏は倉庫内で稼働する機械に親しんでもらうイベントも行いたいと話しました。地域の方々に物流施設の役割を知っていただくことで良り良い関係をつくっていこうとする覚悟が感じられました。
さらに倉庫の屋上にできる菜園を地域住民の方に開放するプランも練っているといいます。野菜の育成に関しては、週に数回、専門のスタッフがやってきてレクチャーをするという徹底ぶり。始めのうちこそテナント従業員限定の利用としますが、ゆくゆくは地域住民の方々を招き入れたい考えです。
恩返しのつもりで本気で取り組む、地域貢献への想い
担当者の面々は赤澤氏の問いかけに答えて、地域への想い、Landport横浜杉田の今後の展望などを思い思いに語りました。
須崎氏 Landport横浜杉田は「オープン・シェア」をコンセプトとし、地域に開き、つながり合うことを大切にしており、地元の方々に物流に親しんでもらいたいという気持ちがあります。物流施設ができても交通量が増えるだけという、嫌悪的なイメージを抜本から変えていきたいです。横浜杉田はIHIにとって特別な土地なので、地域への恩返しのつもりで地域貢献に本気で取り組みたいと思います。他の物流施設と差別化できる要素として、地域イベントに留まらず、地域レジリエンスの向上にむけた取組にも力を入れていく予定です。
髙木氏 地域貢献の取り組みも含めて、デベロッパーとして全体計画のコスト調整など大変なこともありますが、それよりもやりがいの方が勝っています。敷地周辺には住宅もあるため、施工現場ではトラックの出入りなどにも気に掛けながら取り組んでいます。
中村氏 物流施設の近隣へ与えるインパクトは大きく、「杉田梅まつり」の関係者など地元の方々と長い時間を掛けて話合いをしてきたこともあり、Landport横浜杉田が地域にとって異質なものではなく、親しんでもらえるようなものになればいいと思います。そのためにも我々の開発する施設のイベントにも力を入れていきたいですね。地元の人たち、ひいては子どもたちに『ここで働きたい!』と思ってもらえたら本望です
新たな地域共生の形を生み出そうとする、野村不動産とIHIの共同事業への想いから未来に向けた一期一会の輪が広がる可能性を感じると共に、竣工2025年3月末と地域へのオープンイベントが待ち遠しい、最先端を走るダイナミックな物件のインタビューでした。