物流で起こりつつある「協業」「共創」の形 物流業界で進む協働・共創、仲間はずれになってはいませんか?
物流領域では「競争」ではなく「協調」へ。そんなキーワードが物流のさまざまな現場で聞こえてきます。特に、物流インフラの維持に向けて、積極的に取り組んだ企業ほど、その思いを強くしているはずです。
最初は他社との差別化として取り組んだ物流改革。それが、人口減少や新しい働き方などの社会変容の中で、単独では対応できない課題であることが浮き彫りになったとも言えます。個社だけでの抜け駆けが可能な変革ではなく、もはや一丸での取り組みを模索しなければ、物流を維持できなくなるという切迫した危機感が、競争から協調へを後押ししたと言えます。
企業の枠を超えて、あるいは業種の枠や荷主、運送、小売会社などの階層を超えて、時にはライバル同士が手を組んで難局に立ち向かう協働や共創が求められており、そこからこれまでにはなかった新しい取り組みが生まれることも期待されています。
こうした物流課題対応としての協働・共創の取り組みは、食品メーカー6社(味の素、ハウス食品グループ、カゴメ、日清製粉ウェルナ、日清オイリオグループ)による加工食品の共同物流プラットフォーム、F-LINEの設立(2019年)が代表的な事例となるでしょう。加工食品業界特有の物流課題対応とともに、物流危機の到来を先取りした取り組みとして、共同輸送の運用や、納品伝票、パレット・外装サイズ、コード体系などの物流標準化を主導して、政府による実現事例としても紹介されています。
ただ、こうした事例をもとに、ライバル企業同士の協力が劇的に進んでいくバラ色の未来を期待する訳にはいきません。競争と協調の領域を切り分けたとしても、企業利益の追求においては、他社との物流協調が「妥協」「社会貢献コスト」として取り扱われがちで、それではとても持続可能な物流とはなりません。パートナーがいてはじめて成立する協働だけに、事前協議やすり合わせも慎重になり、実現への障壁となってしまいます。
ただ目先の利益のみならず、将来を見据えた事業計画において、物流危機にどう意識高くアプローチしていくのか。3年後、5年後も物流網は維持できるのか、そのとき他社と比べて非効率で割高な物流網になっていないか、競争力が落ちてはいないかなど、現時点から将来の選択肢としての協働・共創に備えておく必要があるのではないでしょうか。いざという時に、協働・共創の仲間の輪に入れないことが事業存続のリスクとなる日が来るかもしれません。あなたの会社は、仲間はずれになってはいませんか?
信頼関係を築ける場から、協働・共創も始まる
協働・共創に向けた取り組みには企業間の信頼関係が基盤です。そういう意味では、同じ目標を掲げた企業同士で構成した協議体などでの活動に参加することが現実的な出発点となるのではないでしょうか。
グリーン物流パートナーシップ協議会では毎年、異業種間連携による持続可能な物流体制構築とCO2排出量削減に貢献した取り組み事業者を表彰するなど、複数荷主と物流会社、さらにはシステムベンダーなども加えた、共同輸送、中継輸送、積載率向上などでの具体的な成果を公表しています。これらの取り組みが参考事例として広がることで、協働の輪が広がっていくことも期待されます。運輸デジタルビジネス協議会では、物流課題ごとに運輸業界とICT事業者を中心としたワーキンググループを結成して対策を検討し、より有用性の高いソリューション連携などの実証や運用などに取り組んでいます。また、各業界団体が共同で自主行動計画策定に取り組んだことをきっかけにした協調では、地域のスーパーマーケット業界での企業の枠を超えた共同配送の運用も報告されています。ほかにも、経済産業省「物流効率化に向けた先進的な実証事業」の連携体(コンソーシアム)での枠組みや、国土交通省の「モーダルシフト等推進事業」などをきっかけにした新たな協働も誕生しています。
共同輸送の分野では、飲料などの重量物と菓子や即席麺などの軽量物を混載して積載率を上げる取り組みや、ダブル連結トラックでの混載幹線輸送のスキーム確立なども報告されています。パレットの標準化や、フィジカルインターネットにおけるデータ標準化なども、業界全体での協働の取り組みの1つと言えます。今後の発展が期待される自動運転トラックや、ドローン輸送の実装においては、それぞれの技術開発事業者とともに物流会社や政府関係機関、自治体、損保会社などさらに広い枠組みの協調も必要であり、信頼できるパートナーの輪を広げておくことも重要になります。書籍・出版物の取次会社、日販とトーハンの協力も、かつては想像できなかった時代の変化の象徴であり、まさにライバル同士の呉越同舟も実現しています。
もっと広い観点で捉えれば、サプライチェーン全域での物流改革において、そのもっとも重要な役割を担う荷主の意識変容から、さらに物流全体に積極的に関与しようという行動変容へと移行することこそが、物流改革における協働の原動力になると言えます。消費者までも巻き込んで物流危機への対応をいっしょに考えること、そこからすでに、協働と共創は始まっているのです。