物流施設の効率化・省人化ソリューションの決定打、自動倉庫【第2章】 注目集まる「自動倉庫」の今、運用の新たな提案も
第1章では自動倉庫がなぜ今必要とされるのか、そのニーズが拡大する根拠を明らかにし、現在を自動倉庫の普及期と位置付けました。日本ロジスティクスシステム協会の調査では、2022年の自動倉庫市場は、前年度比17.9%増、なかでもEC(電子商取引)に対応する小物や不定型の商材の取り扱いに優れるバケット式(ケース式)自動倉庫の分野では46.7%増の820億円以上の市場の成長を見せるなど、その数字の大きさが「普及期」とする理由となっています。
自動倉庫の変遷、現在はECへの対応力で機能競う
バケットに小物品を集めて効率的に保管し、多品種多頻度小口化の入出庫でピッキングや搬送効率を上げるバケット式自動倉庫は、まさにEC需要の拡大が成長させたシステムと言っても良いでしょう。大手メーカーなどのパレット単位での保管や物流対応に優れたパレット管理の自動倉庫に比べて小スペースでの設置が可能なことも、大幅な伸長の要因となっており、すでに既設のパレット用自動倉庫の空きスペースを使ってバケット式を運用するケースも増えているといいます。
自動倉庫自体の歴史としては、1960年台の後半から大手メーカーの製品や原材料保管の効率化のための開発が進み、高度経済成長期の終盤には日本の機械製造や自動車産業などの躍進を在庫管理などで支える形で発展を遂げてきました。スタッカークレーンとの連携、搬送台車、搬送シャトルなどでのスピードアップも進み、ロボット技術の進歩も自動倉庫の多様化に貢献、電子部品や製薬業界など対応する業種も拡大してきました。
ECや、卸売・小売業などでの利便性が高いバケット用自動倉庫の市場では、こうした古くから開発に携わる機械設備メーカーのほかにも、ロボットやAI技術を自動倉庫に活用したベンチャー系企業、さらには海外のEC市場でグローバルな競争から日本に進出した企業などが参入し、多様なアイデアや技術が紹介されていることも、自動倉庫の普及を後押ししています。アマゾンの物流現場などでの運用で知られる、棚搬送GTP(Goods to Person)式のシステムなども自動倉庫の範疇となりますが、ここでは特に、高密度の固定された保管スペースへの入出庫と搬送をAGV、ロボットが担うタイプのバケット式の倉庫をイメージしています。高密度の立体保管エリアの周囲を搬送ロボットが高速で走りまわる様子は、私たちにとっての「未来の倉庫」像を決定づけたように思います。
こうした、AGVピッキング・搬送式の自動倉庫はもっとも新しい技術提案や競争の激しい領域と言えるかも知れません。AGVが立体倉庫を自ら上下移動するシステムなど、保管エリアの3D走行の精度や、ピッキング・搬送技術でも高度化しており、作業スピード、処理能力、庫内スペースの有効活用などでの優位性が競われていることも、自動倉庫市場の盛り上がりを演出しています。
世界からもターゲットとなり普及を後押しする日本の自動倉庫市場
第1章でも、日本の物販系EC化率は、22年度で9.13%と紹介しました。一方、世界のEC化率に目を移すと19.3%と推計されており、日本とは大きな開きがあります。なかでも世界のEC化率を押し上げているのは中国で、22年度の国別EC市場シェアでは50%以上と、もうひとつのEC先進国アメリカの18.4%と比べても圧倒的です。中国では都市圏だけではなく農村利用拡大も予想されるため、今後もEC市場の拡大や、ECを事業基盤にした企業の成長も予想されています。
自動倉庫メーカーも中国市場での競争からグローバルへ進出するケースが増えており、日本の物流市場にもたくさんのメーカーが参入しています。旺盛な中国の国内需要で鍛えられた開発力と収益力で世界的な市場をターゲットとしており、主要メーカーは日本での営業を強化するなど、日本国内メーカーにとっては強力なライバルとなっています。
また、欧米メーカーも早くからグローバル市場への導入で信頼度を高めており、それぞれの成熟したシステムでの優位性で競い合っています。特に、労働者の時給が日本の2〜3倍となるアメリカ市場などでは、高額な人件費を代替する自動化・省人化機器投資の回収速度も早いため、積極的な自動化が進めらており、自動倉庫需要を後押しする形となっています。ある欧米の自動倉庫メーカーの日本担当営業者からは、「本社からは欧米を基準とした導入促進が期待されていますが、日本の人件費水準では省人化設備への切り替え投資に合わない状況」と、日本における導入のハードルの高さについての本音も聞こえてきます。
より広く自動倉庫を運用できるチャンス作りも、今後の課題
自動倉庫運用のメリットに疑問は無いものの、その導入コストを考えると誰もが気軽に利用できる環境にないことも確かです。急速な成長過程にあり、さらに持続的な成長を目指す企業にとっては、自動倉庫運用にトライしてみたくても、簡単にはそのきっかけを掴めない現状があります。
そんななか、立体自動倉庫のシェアリングサービスというアイデアも登場してきました。株式会社IHIと、野村不動産が現在開発を進めている物流施設「Landport横浜杉田」では、施設内の3〜4階部分の吹き抜け空間にパレット式の立体自動倉庫(IHI物流産業システム製)を施設内にビルトインにて設置して、複数の入居テナントが共同で使用できる「シェアリングサービス」として提供します。任意の期間でパレット単位の予約ができ、入出庫の効率化運用を柔軟に取り入れることができる取り組みです。
自動倉庫の運用において最大の課題である「初期設備投資」「固定費」「導入期間の長さ」などを必要とせず、さらに必要に応じた柔軟な運用での効率化に取り組めるため、季節波動や固定賃貸面積の効率的な活用でのコスト削減にも役立つなど、まさに自動倉庫最大のデメリットをカバーし、より多くの事業者が自動倉庫運用の恩恵を受けられるシステムとなっており、2025年3月末を予定する竣工が待たれる状況です。
こうした、より使いやすい環境作りなども、今後の自動倉庫普及のカギとなり、今後、さらに深刻化しかねない物流危機の解決策の1つとなることにも期待されます。