新時代の倉庫とは何か。同社がカテゴリーマルチと呼ぶ物流施設とはどのようなイメージなのか。
野村不動産が作る新時代の倉庫「ランドポート横浜杉田」
小島氏のいう新時代の倉庫は、25年3月に完成予定のランドポート横浜杉田(仮称)という形で結実しつつある。この施設の大きな特徴をひとことでいうと、一般的には借り手が導入する自動倉庫をデベロッパー側が用意し、完成時点で備えていること。自動倉庫を導入する機運は高まりつつあるが、やはり投資規模が圧倒的に大きく、現場をよく知る3PLや荷主企業はなかなか思い切れないのが実情だ。
野村不動産がこうしたチャレンジングな取り組みに踏み切るのはなぜか?
「主な理由としては、物流に関わる企業の中では不動産企業は比較的投資余力が高いという側面があります。比較的、大きな投資をすることに対するハードルが低いともいえます。物流・荷主企業などのテナントが先行して投資しにくいのであれば、私たちのような不動産事業者が投資することは理にかなっていると考えたのです。そこまでやるか、と思われるかもしれませんが、当社はそこまでやる意義や必要性を見出しています。」
自動倉庫をあらかじめ貸主側が備えることの利便性は高いですが、家賃コストが上がる懸念もあります。このような挑戦的な取り組みには、より具体的な利用イメージの説明が必要ではないでしょうか?
「『ランドポート横浜杉田』は自動倉庫と汎用性の高い一般倉庫が同居した倉庫。お客さま(テナント)には、一般倉庫をコンパクトに賃借利用していただき、季節波動で荷物が増える時期に従量課金で自動倉庫を使っていただくイメージです。これによりランニングコストを抑え、トータルで賃料コストを低減していただく狙いです。」
一般的に倉庫を借り受ける際は季節波動を考慮して余裕のあるスペースを借りるのが通例だが、荷物が少ない時期には空きスペースができてしまうというリスクを負う。しかし『ランドポート横浜杉田』では〈荷量がもっとも多い時期よりも小さなスペースを利用し、荷物が多くなった時期には自動倉庫を必要な分だけ使って波動を吸収する〉という利用を想定しているという。
現時点では、自動倉庫は4020パレット分を用意しており、1パレット単位の小割で、短期間での利用をイメージしていることもわかった。さらに、こうした取り組みは『ランドポート横浜杉田』に限定したものにとどまらない可能性もある。「『ランドポート横浜杉田』がうまく進めば、ビルトイン(あらかじめ設置する形態) で機能性を持たせた倉庫の第2 弾と第3 弾も検討していきたい。」これは、自動倉庫に限らずその地域の物流ニーズを把握して、テナントが利用しやすい形で「床」以外のサービスを提供していく戦略を打ち出したともいえる。
こうしたチャレンジを可能にした背景には、独自に作り上げた協業・共創体制が活用された。
それこそが、協業コンソーシアム「テクラム」の存在だ。
『ランドポート横浜杉田』を生み出した協業コンソーシアム「テクラム」
千葉県習志野市の同社物流施設『ランドポート習志野』内に立ち上げられた「テクラム」は、マテハンメーカーやWMS(倉庫管理システム)の開発企業をはじめ、物流効率化のソリューションを持つ企業の集合体で、22年4月のスタートから参画企業が増え続け、現在では75社が名を連ねる物流向けサービスプロバイダーらの〈共創の場〉ともいえる様相になってきた。
立ち上げからおよそ1年半の間に、200社以上のテナントや荷主企業などから庫内の効率化についての問い合わせ、相談を受け、商談につながる実績も増えつつある。自動倉庫やロボットといったハードだけでなく、WMS やTMS (運行管理システム)、庫内作業のログ取りなどのクラウドサービスを提供する企業も多く含まれている。
「24年問題はトラックの問題だけではありません。庫内作業のスピード化、自動化などを含めた物流全体の効率化があって、初めて解決可能になります。」小島氏は、そう「テクラム」という〈異業種〉が結集する枠組みの必要性を強調する。
通常、3PLなどの物流企業にとって、こうしたソリューションサービスの導入には大きな投資が必要となることもあり「自動化が急務といえども一朝一夕には進められない」のが実情で、慎重に検討した上での導入となる。
「だからこそ、そうしたソリューションをワンストップで検討し、さまざまな組み合わせで検証できるテクラムのような仕組みが必要なのです。」
「テクラム」で生まれたさまざまな業種の連携によってランドポート横浜杉田が生まれたわけだが、そのような先進的なコンセプトにもとづくソリューション群が「ランドポート」、つまり野村不動産の物流施設でしか利用できないのは、もちろん野村不動産が時間とコストをかけて構築した仕組みではあるが少々「もったいなさ」も感じてしまう。
外に開かれた、「テクラム」のソリューション
小島氏によると、「テクラム」のソリューションは、野村不動産の物件以外でも利用可能だというのだ。現時点では参画企業の機器のレンタル、リースのようなハード関連の支援のほか、庫内作業の見える化ソリューションやバース予約システム、トラック配車システムといったソフトウエアサービスの導入支援にも対応しているというのだ。テクラムを通じた挑戦はこれにとどまらない。
導入する側の企業は、物流のプロではあってもデジタルソリューションのプロではない。それぞれをどう組み合わせるのかまでを検証するのは荷が重いだろう。こうした課題にも応えようとしていて、小島氏は「それを解決するのが、現在構築中の課題解決プラットフォーム」だと説明する。プラットフォームは、顧客企業が課題を提示すると、テクラムに参画する企業がほかの企業と連携しながら自発的にソリューションを提案」してくれるという仕組みになる見通しだ。
「課題が解決されて、ご利用いただいた方の満足度が向上すれば、ほかのケースでランドポートを使いたいと思っていただけるはず。そう思っていただけるように、『ランドポート』の顧客以外にも、サービスの拡充を目指していきたいのです。」
これらの革新的ともいえる取り組みが全国に展開されるなら、日本企業の物流競争力を底上げしていくことにもつながるだろうと想像してみたが、これまでのところ、同社の物流施設展開は首都圏や関西圏に集中している。しかし、物流分野では24年問題の核心ともいえるトラックドライバーの長時間労働を是正する目的もあって、大消費地間の中継輸送拠点ニーズが高まりつつある。こうした事業環境の変化をどう考えているのか。
地方に広がる野村不動産の拠点開発
こうした疑問を小島氏にぶつけてみたところ、25年までに地方で新拠点の稼働を開始する計画が進行していることを明かした。特に注目すべきは名古屋市郊外に建設される『ランドポート東海大府』で、名古屋の南側を通る伊勢湾岸自動車道の大府インターチェンジ(IC)にきわめて近いロケーションに、延べ床面積23万1400平方メートルもの巨大施設となる。
どのような利用ニーズを想定して
これほどまでに大規模な物流施設を開発するのでしょうか?
「もちろん大都市圏なりの機能は果たしますが、中継拠点としても重要な役割を果たします。この拠点を開発することにより、東京- 大阪間の輸送時間を、これまでより1.5時間程度短縮するルートができるのです。」
小島氏は、24年4月以降に長距離幹線輸送の難易度が上がっていくことを踏まえ、中継輸送拠点としても活用を提案していく考えを示した。
ほかのエリアではどうですか?
「首都圏と関西圏を結ぶ東海圏、西の消費地である九州・福岡エリア、東では東北エリアなど、すでに開発用地を確保して事業化していく計画があります。また、遠からず完全自動運転トラックが実用化されると、そうした立地が必ずしも魅力的ではなくなってしまう可能性もある。新技術の普及の経過をにらみつつ、適切に対応していく。」
新たなテクノロジーの動向をにらみながら、慎重かつ大胆に展開する戦略をかかげる野村不動産では、新規拠点で先進的な開発を行う一方、『ランドポート横浜福浦』のような既存拠点では、3PLなどのテナント企業が入居後に行わなければならない通信、電気などの工事の手間・コストを倉庫側で負担する「選べるサービス」を実施するなどの、きめ細やかな取り組みもスタートしている。
既存拠点でも始まる、新しい取り組み
「野村不動産の営業の特徴は、第三者を介さない直接営業です。顧客とダイレクトな関係を構築することによって、単に倉庫を貸すだけではなく、一歩踏み込み、倉庫を軸にサプライチェーンの効率化に寄与する提案を行いたいと考えています。」
一歩踏み込む提案とは何か。
実は野村不動産が他社と共同開発した物流施設「ロジベース厚木愛川」では、テナントでもある西濃運輸との共同営業のかたちで荷主を集める取り組みを展開している。また、『ランドポート厚木』を九州のドラッグストアチェーン「コスモス薬局」の「センター前センター」として活用し、サプライチェーン統合したという事例もある。先進的なソリューションだけでなく、必要に応じてアナログな手法も絡め、テナントの事業を支援していく姿勢が見て取れる。
「倉庫を作って貸す」という不動産開発会社として「自ら負荷を増やしていくことが正しい道なのか」「どこまでやるのか」という素朴な疑問が浮かぶ。「常に均一なものを作り続けるのが優れたデベロッパーではないと考えています。ニーズを先取りし、均一なほかの商品と差別化されたものを作ること。これまでになかったもの、解決策を提示することこそ真のディベロップメント(開発)であり、野村不動産は常にそうした姿勢を貫いてきました。『テクラム』のような取り組みは、まさに当社のDNAが発現したものだといえます。」
テナント企業の事業拡大を支援することによって、自らの事業の最大化を目指すのが、不動産デベロッパーとしての同社の矜持ともいえそうだが、「ランドポート横浜杉田」が完成する25年には20年代も半ばとなり、次の30年代は目の前だ。物流施設はいったん建設すると30-40年は稼働する息の長い施設でもあり、長い目で見た打ち手が必要となる。
10年、20年、そしてさらにその先の未来に向け、野村不動産はどういった打ち手を考えていますか?
「抽象的な言い方ですが、『ここまでやるか!』と言われるまで前に進んでいけたらいいなと思っています。野村不動産のマンションブランドに『プラウド』がありますが、長きにわたって好評をいただけている成功の要因は、お客様に寄り添って考え抜いて、心から満足していただけるサービスを『そこまでやるか?』というところまで突き詰めていることだと考えています。」
「物流においても同じで、求められることを我々が変わって解決していくことによって、『野村不動産はそこまでやってくれるんだね』『倉庫を借りて得られたプラスアルファの付加価値で、ビジネスが好転した』と言ってもらえるような物件を作っていかなければならない。ただ単に荷物を置く床を作るだけでなく、テナントのビジネスが成長する物件を提供することで、一緒に成長していく。そういうことができて初めて、われわれの物流倉庫が2030年になっても評価されるものになっていくのではないかと思います。」
そう語る小島氏の目には、顧客や社会を「そこまでやるか」と驚かせたい同社の変革のエネルギーが満ちていた。いよいよ物流の2024年問題が本番を迎えるなか、野村不動産の次なる一手から目が離せない。

