物流「共同化」の現在地──なぜ必要か、何が変わろうとしているのか
物流危機で予想された“物が運べなくなる時代”は、着実に忍び寄っています。
今年3月に発表された全日本トラック協会による運送事業者の「2024年問題対応調査」によると、改正改善基準告示への取り組みを進めることで、56.8%の事業者がドライバーの労働・拘束時間が短縮されたと回答しています。ドライバーの労働環境という視点では改善と言えますが、一方で「物流コストの増加」(78.2%)、「納品リードタイムの延伸、配送スケジュールの変更」(45.7%)、「荷物が運べない、配送遅延などによるリスクの発生」(33.8%)など、2024年問題による具体的な影響が顕在化しています。また、ドライバーの確保状況については、必要なドライバー数を確保できているのは37.7%にとどまり、6割を超える事業者が人手不足を実感している状況です。
さらに、ドライバーの高齢化も人手不足に拍車をかけています。2023年度の集計では、トラックドライバーの半数近くが50代以上で年々その割合が増加しています。20代のドライバーは10%に過ぎず、今後、労働力の自然減が進む一方で、若年層の新規参入が追いつかない構図が続きます。構造的な人材不足が今後ますます深刻化するのは間違いありません。
社会構造の変化で、共同化は避けて通れない取り組み
こうした状況の中、限られた人材・車両を有効に活用して輸送手段を確保するために、ますます現実的かつ不可欠な選択肢になっているのが「共同化」の取り組みです。
共同化とは、複数の企業が輸配送手段や物流拠点、情報システムなどを共有しながら、効率的な物流を実現しようとする取り組み。その最大の意義は、限られたリソースの有効活用にあります。たとえば、トラックの空車率を減らし、積載効率を高めることは、ドライバー不足という構造的課題に対する直接的な解決策となります。
下請法の改正などにより、荷主企業には人件費などの物流コスト増の圧力も高まっており、個社ごとの最適化も限界を迎えているはずです。持続可能な物流体制の実現に向けて、理想論で終わらない共同化、企業連携の具体化は避けて通れません。
共同化の重要キーワードは、共通データ活用
共同化をより強力に推し進めていく上で、基盤となるものの1つが「データ」です。共同による物流対応は不可避ですが、一方で、共同化の普及には依然として高いハードルがあり、その最大の障壁は「情報、データ共有」への心理的・制度的な抵抗ではないでしょうか。特に、競合関係にある企業間では物流データの開示に慎重になる傾向が強く、異業種間でも取り扱い品目の性質や納品先の違い、各社の事情に特化したバラバラなデータなど、現場運用のすり合わせに多大なコストがかかるのが実情です。これまでは、輸送のさまざまな条件が合致したとしても、費用の分担などで折り合いがつかずに頓挫するケースも少なくなかったといいます。
物流法改正を契機に、共同化をめぐる環境や各社の取り組み姿勢には大きな変化が見られます。業界や地域単位での限定的な協業やトライアルをきっかけにして、事業方針としてのより戦略的で、全社的・全産業的な連携へと進化する兆しも見えてきました。改正法で効率化への具体的な取り組みが求められ、物流の見直しは事業戦略の最重要事項になっているからです。
AIなど目覚ましいソリューションの進化が、共同化を後押し
データ共同化を支援するソリューションの進化も後押しとなっています。輸配送の効率化や、パレットの共同利用を推進してきた事業者は、そこで蓄積されたデータを共有できる仕組みづくりで共同化の基盤の構築を進めています。輸送ルートや時間、商材など複数企業の物流データを集約・分析するプラットフォームが提案され、帰り荷のマッチングなどもデータ基盤を通して、より効率的に多くの選択肢から最適なパートナーを見つけることも可能になっています。
また、配送ルートや積載率の最適化をAIで自動提案する仕組みの精度向上も、物流の共同化を後押しします。複数の荷主・納品先・配送ルートをリアルタイムで最適化する配送スケジューリング エンジンは、共同配送における納品先のスケジュール調整を容易にし、複数荷主・多温度帯混載といった複雑な実運用もサポートします。また異業種間で荷姿の違う商品を同一パレットに混載しやすくする3次元パッキング最適化ツールなど、積載率の向上に貢献する提案も登場しています。これらのツール活用が増加すれば、蓄積されるデータもさらに充実して、共同化が前進する好循環が実現するはずです。
実際に、複数の飲料・食品企業が配送便を共同化し、重量物と軽量物の混載で積載率の向上とCO2削減を両立させた例、コンビニやドラッグストアの共同配送体制構築など多様な取り組みが報告されています。長年の課題である標準パレットの共同利用なども、データ標準化などフィジカル・インターネットの普及と合わせて、物流共同化の基盤となることが期待されます。
「物流データのルール化された共有」を前提とした、計画的な共同運用が当たり前となり、共同化に参画する企業、データが拡大することで、さらに、その効果を最大限に発揮できる物流オペレーションが普及していくはずです。
共同化推進へ、物流施設の役割も変わる
物流の共同化では、多様な業種が同居する「物流施設」も、今後の重要な役割を担います。例えば、大型物流施設に同居する複数企業間で、その配送を共同化するといった運用は、いまだ実現していません。同じ施設内で荷物を出し入れするのだから、バラバラではなく、できるだけ共同で、そんな“理想”に向けての検証を、物流事業者だけではなく施設が中心となって進めていくような動きも出てくるかもしれません。2025年4月に稼働した物流施設「Landport横浜杉田」(横浜市金沢区)では、入居企業がシェアリングで共同利用できる自動倉庫をビルトインして注目を集めていますが、自動倉庫のシェアリングをきっかけとした共同化領域の拡大など、物流施設が企業同士の連携のきっかけとなる機会も増えてくるはずです。
CLOが牽引する物流革新、これからの共同化に注目
今後、共同化を本格的に進めていくには、「場当たり的な効率化」ではなく、戦略的かつ持続可能な構造改革として捉える視点が不可欠です。そのカギとなるのが、国による物流責任の明確化、CLO(物流統括管理者)の選任義務化といった制度改正です。CLO体制の企業戦略では経営層が物流戦略に深く関与することで、サプライチェーン全体の最適化や社会貢献を見据えた、共同化に対する前向きな意思決定が促されます。単なるコスト削減策ではなく、持続可能な物流への同じ目的意識を持ったCLO・企業同士の信頼しあえる連携が、物流を変えていく推進力となるでしょう。共同化を成功に導くためには、こうしたCLO同士の連携を生み出す業種の垣根を超えた連携の場が拡大することも重要となりそうです。
個社利益を目指す「自社完結型」から「連携による共創型」への転換は、ただ単なる運用の変化ではなく、持続可能な物流を目指す企業の意識改革を求めるもの。業界全体の取り組みの本気度が、「共同化」というキーワードに込められているのです。