“オープン・シェア”Landport横浜杉田が示す、
あるべき物流施設の指針
巨大物流施設「Landport横浜杉田」(横浜市金沢区)が竣工し、4月に満床で稼働を開始しました。敷地面積7万1035平方メートル、延床面積16万3409平方メートルの地上4階建て、ダブルランプ・免震構造を備えた最新施設は、首都高速湾岸線への接続による首都圏配送力にも優れた物流拠点であると同時に、ポスト2024年対応を見据えた開発コンセプトにも注目が集まります。
4月16日には、施設の竣工報告となるメディア発表会が開催され、施設を共同開発した野村不動産株式会社と株式会社IHIがLandport横浜杉田の全貌を紹介しました。
前段には、公益社団法人流通経済研究所 農業・物流・地域部門 副部門長・主任研究員の 田代英男氏から物流危機の現状を俯瞰した、今後の物流施設が果たすべき役割について講演が実施された。単なる施設概要の紹介に終わらない発表会となったのも、Landport横浜杉田ならではといえるでしょう。「2024年問題対応型施設」としての使命を担う“覚悟”を示した、そんな発表会だったといえるのではないでしょうか。
今回、LOGISTICS TODAY編集部も参加した、このLandport横浜杉田のメディア発表会についてレポートします。
唯一無二のオープン・シェア型物流施設を代表するビルトイン自動倉庫
Landport横浜杉田は「オープン・シェア型物流施設」というコンセプトを掲げます。屋上菜園や施設内の広場・樹木など、施設が有する様々なリソースを地域イベントの開催場所や防災拠点として広く共有することで、施設や地域の関係者がつながり合い、地域の雇用や防災レジリエンス向上などの価値を創出できる施設づくりを示し、入居企業らが共同で利用する立体自動倉庫シェアリングサービスを通じても新たな関係の輪やつながりを創出し、地域に開かれた共創型の物流施設を目指すと、野村不動産株式会社 都市開発第二事業本部 物流事業部 事業企画課 課長の佐久間淳一氏は説明します。
このLandport横浜杉田を、ハード及びソフトの両面で他にはない唯一無二の施設としているのは、オープン・シェアを体現するパレット式自動倉庫が施設内にビルトインされていることです。巨大施設の3〜4階を突き抜ける形で設置された、4,020パレットの保管能力を備える自動倉庫もメディアに公開されました。
Landport横浜杉田では、入居企業や外部企業がこの自動倉庫を、好きなタイミング、好きな容量で利用することができます。庫内作業者の不足や、正確で迅速な対応への要請が高まる庫内オペレーションにおいて、自動化は重要な解決策ですが、そのための設備投資も莫大なものとなります。
従来の物流施設において、入居企業それぞれが、自社のオペレーションに合わせた設備投資を行うことが当たり前でしたが、Landport横浜杉田は、施設開発者側が「自動倉庫はすでに用意しました。どうぞ、皆さんで共同で利用してください」と提案します。例えば、繁閑期で変動する倉庫運用においては、利用面積の増減で、無駄なく効率的な運用が可能となります。入居企業は、自動倉庫導入に伴う高額投資や設備導入に掛かる検証時間を必要とせず、効率的な倉庫利用、庫内作業の自動化によるコストと稼働までのリードタイムの最適化を実現できます。
自動倉庫は、株式会社IHI物流産業システムが手がけ、庫内の空き状況確認や予約、入出庫作業など専用システムで指示できる仕組みも用意し、オープン・シェアなアセットとして、自動化を躊躇する企業の業務運用を後押しします。物流施設が自動倉庫のシェアリングサービスを用意し、企業の物流自動化をバックアップするという取り組みからは、ただ保管場所、作業場所を提供するだけではなく、積極的な最適化の提案者へと、物流施設の果たすべき役割が大きく変化しようとしていることがわかります。
施設では、野村不動産が運営する物流の自動化・省人化のための企業間共創プログラム「Techrum(テクラム)」と連動し、プログラム参加パートナー企業(㈱IHI物流産業システムも参画済)の各種マテハン、自動化機器やソリューションをレンタル利用できる仕組みも整えています。企業にとってはハードルの高い自動化への取り組みですが、より柔軟に、身近に自動化に取り組めるような仕組みを施設が提案することで、DXに取り組む事業者も増えていくはずです。
杉田梅に込めた、“真”の地域連携への想い
Landport横浜杉田のオープン・シェアのコンセプトは、入居企業だけが対象ではありません。むしろ、地域に対してオープンな場であることこそが、施設の一番の特色となっています。
佐久間氏はこの施設が果たすべき役割を「”真の”地域連携」という言葉で表します。地域連携というキーワードは、他の物流施設でも使われていますが、あえて”真の”という言葉を冠したことに、地域に込めた並々ならぬ決意がうかがえます。
真の地域ニーズを見極めて地域連携へと昇華するために、野村不動産とIHIは施設計画段階から自ら地域に入り込み、地域の住民、企業、自治体とまずは地道な対話をすることから、この地域に求められる物流施設のあるべき姿を構想していきました。地域経済を活性化する産業インフラ施設でありつつ、地域の歴史文化の継承・防災機能の向上・環境保全などをテーマに企業間や地域間の交流を促す場となることを目指します。地域の人々が日頃から気軽に利用でき、生活のすぐ傍に存在する愛着を持たれる施設づくりを提案しており、従来の物流施設の持つイメージを抜本から変え、地域の人々との関係の輪やつながりを広げようとする強い想いが詰め込まれているといえるでしょう。
もともとこの施設開発地は、IHIの前身企業が航空発動機や建設機械工場として運用してきた、IHIグループにとって歴史と愛着のある土地だと、株式会社IHI 都市開発部 事業企画推進グループの須﨑佑大氏は語ります。企業の歴史と地縁が、真の地域連携に取り組む力強い原動力となっています。
そんな、Landport横浜杉田と地域のつながりを象徴するのが、地域の歴史的樹木である「杉田梅」です。日本の在来品種である杉田梅の起源は1600年代に遡り、最盛期には36,000本以上の「杉田梅林」が観光名所になったともいいます。その風景は、初代歌川広重の浮世絵にも描かれた地域の財産でしたが、明治以降は大火や塩害、戦争、宅地化などで衰退し、今では「幻の梅」と呼ばれています。
野村不動産とIHIは、地域に足を運び、人々との対話を重ねる中から、この杉田梅復活にかける地域の想いを共有することができたといいます。杉田梅の復興を願う地域イベント「杉田梅まつり」に協賛し、事務局として運営に携わってきました。完成した施設でただ待つだけではなく、積極的に地域に飛び込む姿勢がなければ、地域の杉田梅に込めた想いを汲み取ることはできなかったでしょう。
”真の”地域連携を象徴する杉田梅は、施設敷地内で地域の人々が自由に利用できる緑地広場に植樹されるとともに、施設内エントランス・カフェテリアの内装や外壁面の夜間照明のデザインモチーフにも採用されるなど、Landport横浜杉田からも、ふたたび地域の誇りとするための発信が続けられていきます。
Landport横浜杉田が示す、ポスト2024年問題対応型施設の使命
地域社会との共生を見据えた仕様としては、定期的に防災イベントが開催される開放型広場「LandHOOP(ランドフープ)」や、ランプウェイ下の空間を活用したコミュニティスペースも、地域の人々が利用できるオープンスペースとして用意しています。また、地元・横浜市金沢区と防災協定を締結し、万が一の地震・津波などでは免震機能を備えた避難基地となり、約1,000人を受け入れられる屋上階(乗用駐車場)や、防災備蓄庫、非常用電源も紹介。入居企業と地域の人々にとって心強い防災拠点となることが解説されました。
また、ユニークな試みとして、マルチテナント型施設では国内初事例となる「屋上菜園」も設置されます。IoT技術を活用したこのスマートコミュニティ農園は、アプリを介した参加型のシェア型農園であり、食農体験を通じた学び・憩い・交流ができる新たなコミュニティ形成の場として、オープン・シェアのコンセプト実現に貢献します。入居企業間の新たなコミュニケーションツールとして導入しており、今後、地域の人々も利用できる仕掛けも検討しているとのことです。
もはや、ただ巨大で消費地に近いだけでは、ポスト2024年問題に対応できる物流施設とはいえません。物流革新を積極的に先導すること、多様な連携の中心となること、地域に寄り添い物流への理解促進に貢献することも、施設が果たすべき使命となっています。Landport横浜杉田の竣工によって、これからのあるべき先進型物流施設の、業界的な指針が提示されたともいえるでしょう。