〜「関西版物流議論」で、CLO像がより明確に〜 CLO設置義務化まで1年足らず、新体制へのスムーズな移行に何が必要か
野村不動産と物流ニュースメディアLOGISTICS TODAYが、物流業界が直面する課題を掘り下げ、解決策を探る「物流議論」が、初めて関西で開催されました。会場となったのは、西日本最大級の物流展示会「第6回 関西物流展」会場である大阪市住之江区のインテックス大阪。4月9日から11日の3日間にわたる展示会で、「関西版物流議論」として3日間の日替わりテーマで開催。議論の場を広げたセミナーとなり、連日の大盛況となりました。
今回、3日間にわたる共通テーマは「CLO(Chief Logistics Officer、物流統括管理者)」。来年4月予定のCLO選任義務化まで一年というタイミングとなり、荷主事業者をはじめとした多くの物流関係者の関心を集めたようです。
ここでは、物流関係者にとっての最重要事項の1つであるCLOを中心に、CLOが管轄すべき多様な領域ごとの課題や取り組みの方向性について、3日間の議論を総括します。
CLOと物流責任者の大きな違い「ファイナンス力」
初日の議論は、CLOが「物流責任者」とはどう違うのかなど、いまだにCLO像の模索が続く現状を再確認することからスタートしました。池田氏はCLOに求められる役割として「ファイナンス」の領域で、対投資効果などを見極められる能力と責任が、物流部門の管理責任者との決定的な違いだと指摘しました。池田氏は、「物流の装置産業化には、投資戦略とファイナンス力が不可欠。CLOには経営層としての意思決定と調整という重要な役割が求められる」(池田氏)として、ただ社内サプライチェーンの上流からの計画を全うするだけではなく、経営視点でキャッシュフローを最大化する戦略立案とその実行がCLOの役割だと解説しました。また、効率化による利益追求とコンプライアンス遵守を両立させることも、物流管理者とは違うレベルで果たすべきCLOの使命となることを示しました。
一方、経営的視点で投資戦略を考えた時には、個社での取り組みの限界にも直面するはずです。投資を社内で正当化するだけではなく、社外のステークホルダーとの調整や連携で合理的な解決策を探ることもCLOならではの重要な役割となり、デベロッパーの拠点戦略や投資力を活用するような取り組みも必要となります。
佐久間氏は、3月に完成したばかりのオープンシェア型の物流拠点「Landport横浜杉田」の取り組みを紹介、野村不動産によるDXや施設開発投資における業務支援で、CLOをどのようにサポートできるかを解説しました。同施設では立体自動倉庫のシェアリングや地域連携を取り入れた先進的な仕組みが採用されており、「DXとは機械を導入することではなく、自動化すべき業務を見極め、再構築すること」(佐久間氏)として、荷主だけではなくデベロッパーもまた、DXと投資による物流改革を推進する“CLOチームの一員”を目指す姿勢を示しました。
IT・データ分析、DX牽引者としてのCLO像としては、「データを起点に、企業横断的な意思決定を行うリーダー」が求められるという認識も共有され、DXの拡大で実現が期待されるのは、データが自動でたまっていく仕組みが整うことだと、赤澤氏は提起しました。集積したデータをより有効な戦略への改善基盤につなげるとともに、スタートアップなども含めた多様なステークホルダーがデータを共有、可視化することで、新たな課題解決策が生まれる体制を、CLOが開拓していかなくてはなりません。
“北極星”を指し示せーCLOのリーダーシップを検証
2日目のテーマは「CLOの現場力:物流管理とリーダーシップの新潮流 〜現場牽引力とプロジェクト管理〜」。物流統括管理者(CLO)に求められる現場マネジメントとプロジェクト推進力に焦点を当てた議論となり、初日に続いてシグマクシスの池田氏とLOGISTICS TODAY編集長の赤澤氏、そして野村不動産からは、都市開発第二事業本部 物流事業部長の稲葉英毅氏が加わって議論を繰り広げました。
池田氏は、CLOに必要なリーダー像について言及。変化の激しい環境下や利害の異なる各部門の方向性を1つに束ね、CLOが指し示すぶれることのない企業戦略の目標を“北極星”に例え、「物流部門の業務効率だけでなく、経営に資する“北極星”を現場に示し、社内外の関係者とともに実行する力が求められる」と語りました。
<中央>野村不動産株式会社 都市開発第二事業本部 物流事業部長 稲葉英毅氏氏
<右>LOGISTICS TODAY 赤澤裕介編集長
荷主企業がCLOを中心として物流課題を我が事として課題解決を先導するとき、連携する3PL事業者、デベロッパー、システム開発者はどのようにそれに応えるのかも問われる局面となります。稲葉氏は物流施設を提供する立場から、「これからの物流施設は、CLOの判断と行動を支える“実行の場”にならなければいけない」と、CLOのリーダーシップをサポートする物流施設像を明示しました。
今後、デベロッパーやSIerなど、多様な領域のプレイヤーが荷主や3PLを補完する役割を担うことになり、野村不動産も「共同化など、物流オペレーション提案も積極的に行っていく」(稲葉氏)姿勢を明らかにしています。これまでとは違う“キープレイヤー”の参画が、物流の革新を促すこととなりそうです。
CLOが先導すべき、持続可能戦略と共同化
最終日のテーマは「共同化と脱炭素が拓く新たな物流価値 〜CLO視点の持続可能性戦略〜」。この日は、初日と同じくシグマクシス池田氏と、野村不動産の佐久間氏、LOGISTICS TODAY赤澤氏の3人が、CLOにとっての脱炭素取り組みなどを議論しました。
<中央>野村不動産株式会社 野村不動産 都市開発第二事業本部 物流事業部 課長 佐久間淳一氏
<右>LOGISTICS TODAY 赤澤裕介編集長
物流業界は今後ますますカーボンニュートラルの対策を強化していかなくてはいけませんが、現状は物流危機にまつわる取り組みの後回しになっていることは否めません。
とはいえ、CLOの責務として後回しのまま放置でよし、というわけにはいかないはずです。企業利益に貢献する効率化への取り組みと違い、CLOが環境対策に取り組む意義をどこに求めるのか、”本音”では揺らいでいる企業もあるでしょう。
これについて池田氏は「今後は物流現場の課題だけでなく、脱炭素や地政学リスクに対応したサプライチェーン再構築の視点がCLOに求められる」と断言しました。欧米で進む環境に配慮した経営への転換、より厳しい基準の環境規制への変更など、いつ事業経営の新たなリスクになってもおかしくありません。グローバル物流で当然とされる環境取り組みが遅れれば、サプライチェーンから排除される可能性もあります。「トランプ関税」で大幅なサプライチェーン見直しが検証される今こそ、危機感をもってサプライチェーンの安全保障を考えておくべきと池田氏は訴えました。
サプライチェーン全域・スコープ3の炭素排出量可視化と削減は、個社だけではとても解決できないもの。物流の共同化など、より進化した企業間連携取り組みの末に環境への貢献も実現するものかもしれません。佐久間氏は、共同物流などのオペレーション実現の場となる役割を施設が担うことで、効率化とCO2削減を支援する野村不動産の取り組みを紹介。愛知県大府市と東海市にまたがる中継拠点としても機能するLandport東海大府(2025年10月竣工予定)を、サプライチェーン統合マルチテナント施設と位置付け、脱炭素にハード・ソフト両面の連動で貢献することを目指すことを述べ、共同化は単なるコスト削減手段ではなく、人材難、さらにはリスク対応や脱炭素といった複合課題を解く共通解となるため、CLOが取り組むための舞台として、効率的な共同物流拠点開発で支援していくことを示しました。
CLO業務のサポート目指し、「CLOサロン」立ち上げ
3日間の議論で明らかになったのは、CLOが管轄する領域があまりにも広大で、「ファイナンス」「IT・データ分析」「リーダーシップ」「プロジェクト管理」「ロジスティクス」「サプライチェーン管理」と、どれも難易度の高いミッションであること。物流改革が個社だけでは成立しないのと同様、CLOも個人ではなく、それを支えるチームビルディングによって、これらの領域を管轄するべきという方向性もより明確になりました。3日間にわたる議論が、社内体制を模索するための足がかりとなること、また、物流事業者やデベロッパー、コンサルタント、システムベンダーなども荷主企業の取り組みを補完する連携こそが、CLOの機能を最大限に発揮させることにつながります。
今後も、CLOについての議論が進むにつれて、かえって不安を抱えたままその役職を担う担当者も増えていくのではないでしょうか。「物流議論」「関西版物流議論」も、ただ課題や方向性を提示するだけではなく、企業のCLO体制へのスムーズな移行をサポートするためのコミュニティー「CLOサロン」開設へと、CLO支援の取り組みを拡大します。
このコミュニティーは、CLOやCLOを目指すネクストリーダーたちが、情報交換、連携、気づきを得て実践の場で活用することを目指します。企業間連携、共同物流の具体化など、その基盤となるのは人と人とのつながり。ライバル企業同士、あるいは異業種との交流の中から、思わぬヒントが見つかるかもしれません。
CLOサロンでは、これまでの物流革新を先導してきたリーダーはもちろん、戸惑いや不安を抱えたままのCLO候補など、たくさんの“新戦力”が集まって、これからのあるべき物流の姿を目指していきます。CLOとしての物流改革の第一歩は、社内のチーム作りと並行して社外の実践的な連携の輪を広げていくことなのです。
▼CLOサロン申込フォーム
https://forms.gle/H5mN1soqqhnBLV7X8