幹線輸送の新時代へ前進、自動運転トラックの最新動向
ドライバーの“誇り”が生む安全文化~運送業界の新基準
ドライバーの担い手不足と高齢化を背景として、運送業界では、交通事故防止と安全運行のための対策がこれまで以上に重要になっています。
行政処分の厳罰化も、運送事業者の安全への取り組みをあらためて見直す契機となりました。酒酔い・酒気帯び運転に関する処分基準の強化や、点呼の未実施、基準告示違反の処分量定引き上げなど、法令遵守徹底の意識を高める必要があります。
全日本トラック協会(全ト協)は、たった一度の事故が事業の信頼と存続を左右することから、安全こそ最大の経営課題であると繰り返し呼びかけ、ドライバー1人の過失で片付けられる問題ではないことを訴えています。物流危機の解決に向けては、物流事業への理解が深まることが重要ですが、ほんの少しの油断が業界全体への不信感につながるおそれもあります。
改正法では、軽貨物自動車運送事業者への安全の取り組み義務も強化され、運ぶ人々の安全意識への社会の目もより一層厳しくなります。物流は人々の生活と経済活動を支える社会インフラであるとの理解を広げていくためにも、「安全」は揺るがせにできない業界全体の最優先事項なのです。
運送業に必須、より厳しい安全への意識と投資
運送事業における「安全」は、一つの対策だけで成り立つものではありません。中小事業者が大部分を占める運送業界においては、その対応ひとつひとつにも大きな負荷がかかります。より厳格な安全取り組み業務を進めるためには、デジタルツールの力を借りることを避けられません。安全管理にデジタル化を導入することは、信頼できる運送事業者と認められるための必要条件になっていると考えなくてはなりません。
システムベンダー側も、運送事業者がより安全対策に取り組みやすいような各種サービスの提供を強化しています。例えば、ドライブレコーダーは、これまで事故後の映像確認を目的とした“事後対応ツール”としての活用が主だったはずですが、運転傾向の可視化や、安全教育の教材としても進化しています。
スタートアップなど新たなプレイヤーも参入して多様なサービスプランを提示しており、事業者にとっての導入ハードルも下がりつつあります。まずは中小企業にもできる安全管理のデジタル化について情報収集をすること。それだけでも安全に対する意識が変わるはずです。クラウド型の教育システムなど、時間や場所に縛られずに受講できるサービス利用も有効な対策です。データやVR(仮想空間)を利用した運転教育などは、ドライバーにとっても納得度の高い指導ができます。
もちろん、さらにDXを推し進めることで、高度な安全への取り組みを他の事業者との差別化ポイントとすることも考えられます。本稿執筆時点(2025年4月)は、「業務前自動点呼」の本格運用直前、点呼制度の大きなターニングポイントを直前に控えています。これまでの対面に限定した点呼制度から、すでに運用されている業務後自動点呼、さらに業務前自動点呼まで加えた完全自動点呼や、事業者間の遠隔点呼が本格運用となれば、運行管理業務の大変革となります。運転手と運行管理者にとっても、点呼場所などの柔軟な運用が実現できれば効率化の効果は計り知れません。
とはいえ、今回の点呼見直しの主旨は、ただ業務の効率化だけにあるのではなく、効率化した時間を使って安全対策をさらに一歩進めることが主眼であることを忘れてはいけません。自動点呼機器を介したアルコール検査や体調管理で、人による忖度を排除したより厳密な管理実現も期待されます。
政府は「運送事業許可更新制」の導入に向けた議論を開始しています。これは、トラック運送事業者の許可更新時に、運転手への適切な処遇に配慮した運行管理体制が整っていなければ許可を維持できなくなる制度です。これまで以上に安全・法令遵守の常態化が問われ、不当に安価な配送の請け負いを防いで悪質な運送事業者の排除、物流品質と安全性で正当に評価される業界づくりを目指しています。
適正料金の収受も、不当に安価な運送で安全を蔑ろにしないための取り組みです。事業継続できる運送会社であり続けるには、運行管理や労務管理データをドライバーの賃金を上げるために活用できる仕組みづくりなど、運送に関わるあらゆる業務で、デジタル投資も含めた不断の努力が必須なのです。
ドライバーの安全運転技術が評価される業界づくりを
ドライバーの過失や体調不良が、企業・業界全体の信用を一瞬で失わせる時代です。さらには外国人ドライバーが安全に活躍できるシステム整備にも力を入れて行かなくてはならないでしょう。安全への取り組みは努力目標ではなく最低条件であること、安全対策の基盤となるのがドライバーひとりひとりが健康的に働ける環境づくりであることを、改めて肝に銘じなくてはなりません。
ドライバーに過労や無理なシフトが強いられれば、どれだけ優れたシステムを導入しても事故のリスクはなくなりません。だからこそ、「働き方改革」はすべての安全対策の根幹といえます。休息時間の確保や、業務負担の平準化、体調やメンタル面のケアなど、日常的な職場環境の整備があってこそ、他の安全施策も効果を発揮します。
そして何より重要なのは、ドライバー自身が「自分と家族のために、安全に取り組む」という意識を持てるような仕組みづくりです。安全は「強制されるもの」ではなく、「自分で守るもの」「自分の価値を高めるもの」として浸透させていくこと。そのための工夫と仕掛けが、業界全体の信頼回復と未来の担い手確保にもつながっていくのではないでしょうか。
安全運転の技術と経験、高い遵法意識などでトラック運転手を評価する体制を構築すること、トラック運転手にプライドを持って従事でき、困難な業務に見合った報酬が得られる職業としていくことが、運送業務の安全への取り組みにおける1つの目標となります。若者が憧れるような安全意識の高いドライバー像を確立していくことが、持続的な安全対策なのです。