新生Techrum Hub、物流の全体最適化、共創と革新のシナジーを明示
直面する物流課題の解決のために、ただ倉庫スペースを供給するだけに止まらない、革新的な取り組みを展開しているのが、野村不動産です。
企業間共創プログラム「Techrum(テクラム)」もそんな取り組みの1つ。物流現場効率化のために、DXソリューションベンダーやマテハンメーカー、物流事業者や、コンサルティング、ファイナンスなど多様な領域の企業が協力パートナーとして結集し、サプライチェーンの再構築と、協調領域での連携による実現を目指しています。
Landport習志野(千葉県習志野市)に開設した「習志野Techrum Hub」は、テクラムの協力パートナー企業の各種ソリューションが設置され、物流DXに関する常設の展示場としての役割を果たしています。自動化・省人化の効果検証拠点として、これまで2000名以上が見学に訪れたといいます。
そんな習志野Techrum Hubが、今回リニューアルを実施しました。物流現場DXへの関心が高まり来場者数も増加するなかでの大胆な取り組みで、テクラムは何を目指すのでしょう。
今回、LOGISTICS TODAY編集部は、実際にテクラム見学会に参加して、案内役を務める野村不動産株式会社 都市開発第二事業本部 物流事業部 事業企画課の朝倉南氏から、今回のリニューアルに込めたテクラムの思い、新しい見学会のポイントを聞くことができました。
リニューアルで、フローやプロセスに沿った現場改善がより明確に
リニューアルのポイントとなったのは、これまでのソリューションごとの展示ではなく、物流のフローやプロセスに沿った効率化を検証できるようにレイアウトを変更したことです。
朝倉氏は「入荷から出荷まで、実際の作業の流れに沿って機械が並んでおりますので、ご来場いただいた方のオペレーションのイメージがつきやすいようなレイアウトになっています」とリニューアルの狙いを説明します。業種・品物・荷姿ごとに最適なソリューションの組合せを、作業現場の流れに応じて紹介することで、実際の運用環境と照らし合わせた現場課題の解決策が、より具体的に想定することができるようになりました。
医薬品のような小さなものと、パレット単位で荷役するような品物では、当然運用するツールや前後工程との連携もまったく違うものになります。リニューアル後は、来場企業がそれぞれの取り扱う品物に合わせた自動化のヒントを得られるように、荷物の形状に合わせた様々なゾーン分けで、物流作業のストーリーとして体感できるような工夫が施されています。
テクラム見学会で、物流のストーリーごとに課題を追体験
では、実際のリニューアル後の見学会の様子をレポートしてみましょう。
見学会ではまず、テクラムの概略が解説され、”それぞれの現場の答えが見つかる5つのストーリー”にそって、ソリューションを紹介することが案内されます。
まず、1番目のストーリーは、庫内への入り口となる「入荷」領域での効率化ソリューションの紹介です。このゾーンには、実際のウイング車も設置され、伸縮式コンベアを活用した荷下ろしやパワースーツによる荷役の様子を見ることができます。次の工程への荷物の移動は、カゴ車搬送用AGV(無人搬送車)が担い、人手を借りることのない工程間の搬送を実演します。
続く2番目のストーリーは、医薬品やゲームソフトなどの超小物ピッキングを想定した「出荷/自動化ライン」です。高保管率、高機動力を備えたケース自動倉庫からコンテナを出庫し、ピースピッキングした品物を空き段ボール箱へ入れて自動封函、カゴ車に積み込んだ出荷荷物をAGVが出荷バースへと搬送する自動化フローが紹介されます。
3番目のストーリーは、食品・日用雑貨などの小物ピッキングを想定した「出荷/スピードライン」です。段ボールの開梱作業自動化ツールから、人為ミス発生を防ぐGAS(ゲート・アソート・システム)による仕分け作業工程へ、さらに荷物を段ボールに自動封函するまで、人手による作業工数を削減して人為ミスなく運用するイメージが確認できます。
4番目のストーリーでは、アウトドア商品や建材など、特に不定形の品物の取り扱いに焦点を当てたソリューションが提案されます。デジタル・ピッキング・システムとAMR(自律走行搬送ロボット)を連動したピッキング省力化を経て、ジャストサイズ製函機へと搬送し、緩衝材や輸送費が削減できる運用事例が示されます。
5番目のストーリーでは、飲料などの重量物や家具など大型物のパレット無人ハンドリングを実演します。移動ラックとAGF(無人フォークリフト)を併用した入出庫作業などの自動化も確認でき、負荷の高い作業現場の効率化、フォークリフトオペレーター不足への対応策を提示します。
また、こうした物流工程の流れに沿った自動化・省人化機器だけではなく、環境問題に対応する消費電力の可視化ソフトウェアや、従業員の環境改善、安全確保のためのツールも用意され、物流における課題への網羅的な対応を提案していることがわかります。
課題の解決策だけではなく、新たな課題の発見、新たな連携の創出も
ストーリーに沿って実作業をイメージしやすい展示方法にしたことで、「一つの機器ではなくて、その工程の前後の工程まで加えて、全体最適なソリューションのイメージがつきやすくなったと思っております」と朝倉氏はいいます。工程の流れに従った見学会の終了後は、興味を持ったソリューションについてより詳しく、個別の相談で検討することも可能です。
30社、70ソリューションにおよぶ機器が常設で展示されているのは、国内ではおそらくここだけ。それだけに、これらの数多あるソリューションから最適なものを選択するのも難易度の高い作業となりますが、テクラムでは野村不動産に窓口を一元化できるので、マテハンメーカーごとに個別の打ち合わせや調整などをする必要もありません。たくさんの選択肢と検討材料を用意しながら、スムーズな導入と運用をサポートすることで現場の自動化を推進すること、また、導入して終わりではなく、常に改善の可能性を提示し、後押しを続けていくという、テクラムの果たすべき使命を具体化した施設が習志野Techrum Hubだといえます。
こうした見学会は月2回、一日2回開催されています。この日の見学会にも、各回30名、計60名ほどの物流関係者が訪れました。実際のソリューションの運用例を見ることが、より具体的な相談や質問にもつながっているようで、見学会終了後もブースごとに熱心な商談が行われていました。
導入企業にとっては、ただ、効率化ツールを見るだけではなく、具体的な運用イメージや新たな気づきが得られる機会となるのがテクラム見学会です。また、参画パートナー企業にとっては、各領域のマテハンメーカーや、時にはライバル企業同士が連携して、新たな可能性を育む舞台となっている様子も見ることができました。参画パートナー企業も当初の目標だった100社を突破し、新たな連携や共創の可能性もますます広がります。
テクラム見学会は、これから本格的にDXに取り組みたいという企業はもちろん、すでに効率化の取り組みを進めている企業にとっても、DXに関する情報を更新し、まだまだ改善の余地があることや、より効果的な運用方法があることなど、自社の取り組みを再確認する機会にもなるはずです。物流の改善に取り組む担当者が集まる場だからこそ、そこから生まれる新たな革新にも期待がふくらみます。