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人材育成こそが、物流最適化への重要な投資である

物流業界全般

物流業界の商慣習を革新し、デジタル技術の活用などを牽引するには、これからの物流を戦略的に牽引する高度な人材育成が不可欠です。特に近年の物流改革においては、単なる効率化や在庫管理、配送オペレーション管理を超え、社会課題としてサプライチェーン全体を俯瞰し、内外との連携を強化できる人材が求められています。

CLO設置義務で問い直される、企業の人材戦略

国が進める物流改革の一環として、2026年度からは事業規模の大きな特定荷主に対し物流管理統括者(CLO)の選任が義務化されます。このCLOには、単なる物流管理者ではなく、経営の観点から、調達、生産、販売といった各工程と調整して物流の最適化を進めることができる、高度な物流の知見が求められます。

この国の物流課題を克服し、さらなる持続的成長を目指すには、将来のCLO人材や高度物流人材の育成においてもロードマップを描くこと、人材教育も今から必要な投資であるとの観点が必要です。そのためには、ただ単に民間だけに委ねるのではなく、政府が主導した取り組みとすることも必要でしょう。

日本の物流業界では、高度物流人材の育成が他国と比較して遅れていると指摘されています。例えば、欧米諸国では、サプライチェーンマネジメント(SCM)やロジスティクスに特化した高等教育プログラムが充実しており、専門知識を持つ人材が多数輩出されています。一方、日本では、物流に関する専門教育の機会が限られており、企業内での人材育成に依存する傾向が強いとされています。

そうした状況の打破に向けて、国土交通省では2021年から高度物流人材シンポジウムを開催し、企業の人材育成の取り組みを促してきました。高度物流人材の育成・確保に関するワークショップでは、物流危機の到来に対する人材育成での対応を検証し、民間事業者の先進的な事例の共有などを通じて取り組みを共有する機会を設けてきました。

国土交通省高度物流人材の育成・確保に関するワークショップ提言「物流起点の価値創造を実現する人材の育成に向けて」概要(令和5年3月30日)より

その中では、企業による物流教育の具体例も紹介されています。サプライチェーンマネジメント部門において、新卒採用を戦略的に行うことを人材育成のスタートとする企業の事例、企業内大学を設立して将来の経営者候補向けの選抜プログラムのコースを開設し、専門知識の提供だけでなく、社員自らが全社的な問題意識を持って事業変革を推進できる人材育成を推進している事例、経営層から現場社員まで巻き込んだ社内物流教育に取り組む事例など、計画的な人材育成を実施している企業が、物流革新においても先導している事実に気付かされます。積極的な人材育成への投資を進める企業こそが、2024年問題への対応をリードする企業として評価されています。

特定荷主のCLO選任義務化には、こうした企業ごとの計画的な人材教育を加速させる意図もあるはずです。

企業の新たな物流戦略を支えるチームが、未来のCLOを育む

将来を見据えた人材育成と同時に、企業にとっては、まもなく施行される法令への対応も急がれます。CLO設置が義務化される予定の約3200社において、すでに広範で複雑なCLOの要件や素養を満たす人材を確保している企業は、現状決して多くないでしょう。

まず、CLO選任が義務付けられる企業としては、CLOが果たすべき多様な職務をチーム全体で分担してカバーできるような、効果的なチームビルディングを考えることも必要です。

CLOに求められる6つの能力
引用:明らかになるCLOの人物像と必要な6つの能力—第四回物流議論イベントレポート【後編】—より

CLOを支えるチーム作りで、メンバー間のコミュニケーションが活性化し、組織としての生産性や問題解決能力が向上することが、物流統括者としての素養を培うことにもつながるはずです。また、各メンバーの役割や責任が明確になることで、チーム全体としてのパフォーマンスが最大化されます。

物流部門単体のコスト削減ではなく、企業全体で物流からの価値創出を目指すことは、CLO1人が先導するのではなく、企業一丸で進めるべき取り組みです。物流起点での変革を目指す企業マインドの醸成が、CLO体制下における企業成長の前提といっても良いでしょう。

物流部門と製造部門が密接に連携し、製品の設計段階から物流の効率性を考慮する仕組みを構築するなども、CLOの社内連携構築に期待される取り組みです。積載効率を高めるために製品のパッケージを改良し、トラックの積載率を向上させることなども、CLOだからこそ実行できる物流再構築です。物流に関する知見だけではなく、調達、製造、販売などの幅広い知識や調整力がないと見出せない解決策もあるはずです。

高度物流人材の育成・確保に関するワークショップ」提言 「物流起点の価値創造を実現する人材の育成に向けて」よりP.6「3.高度物流人材の育成に必要となる教育プログラム(企業内教育)の進め方 (1)高度物流人材像の類型とキャリアパス 」

さらに、CLOの果たすべき役割は、社内連携だけではなく、他の企業との連携、物流の共同化にもおよぶため、企業間連携を構築できるような人材が「会社の顔」とならなくてはなりません。対外的には企業の代表として責任を負いつつ、その実務を支えるチームが強化されること自体が、企業の物流人材育成も加速させるはずです。ただ、1人の飛び抜けた才能を輩出するのではなく、多様な領域から物流での付加価値創出を実現できる人材を育てられることが、今後”物流で企業価値を高める”企業の条件となるのではないでしょうか。

CLO体制の革新実現へ、業界・社会全体で育てる物流人材

社内から社外の連携へ、業界内から異業種間連携へと、CLOが関わる領域は拡大し続けて行きます。物流人材の育成においても、企業単独ではなく業界と社会全体でサポートしていく体制作りもますます重要になっていくでしょう。

物流業界全体として、企業間での知見の共有や、業界横断的な人材育成の仕組みを構築する取り組みも広がっています。物流革新を主導するフィジカルインターネットセンターや日本ロジスティクスシステム協会などの業界団体・研究機関は、高度物流人材やCLOの交流を促すプロジェクトを設置して、物流人材が有効に機能する体制作りを後押ししています。また、大手企業が中心となって物流課題の解決を目的としたオープンイノベーションの場を提供し、個社利益にこだわることのない業界全体の持続可能性を高めるための検証を深めることも、次代の物流リーダー育成を見据えたものです。こうした交流が、企業トップの意識変容や行動改革へとつながれば、物流人材としての成長は決して新人や若手だけに限定したものではなくなるはずです。

今後、物流を単なるコストセンターではなく、企業の競争力を高める要素として位置づけることが重要になり、その取り組みを牽引するだけでなく、調整できるような人材が必要となります。そのためには、社内教育プログラムの充実、デジタル技術を活用した物流プロセスの最適化、異業種間の協力体制の強化は必須です。さらに、国や業界団体と連携し、標準化や効率化を進めることも不可欠であり、そのための投資も考えなくてはいけません。

物流の未来を担う人材の確保と育成は、企業の成長のみならず、日本の物流、経済全体の競争力向上にも直結する重要な課題です。物流革新をもたらすのは、新技術の開発や制度改革だけではありません。各企業はもちろん、社会全体で未来の物流リーダーを育成することこそが、物流革新のブレイクスルーとなるのではないでしょうか。

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