改正法の施行まであとわずか、今こそ物流取り組みの再確認を
2025年を迎えた物流業界ですが、「2024年問題」が終わったわけではありません。昨年公布された改正物流総合効率化法(施行後は物資流通効率化法に名称変更、以下本稿では改正法)の施行も近づくなど、むしろこれからの取り組みが本番です。
昨年11月27日、改正法施行に向けての詳細に関する取りまとめが公表されました。二段階に分けて施行される法令は、国土交通省、経済産業省、農林水産省の3省合同協議と、880件に及ぶパブリックコメントを反映したもの。基本方針やすべての荷主・物流事業者などの努力義務や判断基準に関する第一段階の法令施行はこの4月を予定しており、秒読み段階となった今こそ、あらためて基本方針・努力義務・判断基準を理解し、周到な準備を進める必要があります。
荷待ち・荷役時間、積載率向上に向けて基本方針を確認
改正法の基本方針では、荷主や物流事業者ら関係者が協力して業務効率化を図ることで、2028年度までにトラックの運行全体の5割で、1運行当たりの荷待ち・荷役などの時間を計2時間以内に抑える(1人あたり年間125時間の短縮)としています。荷主には1回の受け渡しごとの荷待ち・荷役等時間について、原則として目標時間を1時間以内と設定しつつ、2時間を超えないよう短縮することが求められ、すでに1時間以内を実現している荷主等には継続とさらなる改善が期待されます。また、5割の車両で積載効率50%を達成することを目標とし、車両全体では積載率を44%まで引き上げることを目指す方針です。
トラックドライバーの運送・荷役などの効率化のための設備投資やデジタル化、物流標準化やモーダルシフトへの取り組み、再配達削減や多様な受け取り方法の活用、「送料無料」表示の見直しに向けた国民の理解の増進なども基本方針に明記されました。消費者が「本当に即日配送が必要か」「置き配などを活用できないか」をより深く考えるきっかけにもなるはずです。
効率化へ向けた「取り組むべき措置」の実施状況も検証を
すべての発着荷主、連鎖化事業者(フランチャイズチェーン本部)、物流事業者に課された努力義務の判断基準も明示されました。積載効率の向上に向けて、共同輸配送や帰り荷の確保、適切なリードタイムの確保、発注量・納入量の適正化に努めたかが問われます。荷待ち時間削減では、トラック予約受付システムの導入や混雑時間を避けた日時指定が求められます。荷役時間削減では、パレットなど輸送用器具の導入、タグの活用による検品効率化、フォークリフトや作業員の適切な配置なども、効率化に求められる取り組みとされています。
今後は、こうした具体策に関する解説書が策定され、国が必要に応じて調査を行う方針も示されています。取り組みが不十分な場合や悪質な荷主の事例が見つかった場合には、トラック・物流Gメンや公正取引委員会との連携による働きかけも想定されるため、小手先の対応では済まされなくなり、発荷主と着荷主の連携も強化しなくてはなりません。
2026年の第2段階施行で、「特定事業者」に課されるさらに重い責務
第二段階の法令施行は2026年に予定されており、物流全体への影響力が大きい大手企業には、努力義務だけではなくさらに重い責任が課されます。一定の規模以上の荷主、連鎖化事業者、貨物自動車運送事業者、倉庫事業者は「特定事業者」として、物流業務効率化の中長期計画の作成や定期報告などが義務付けられ、もし実施状況が不十分な場合には国が勧告・命令を行います。
取りまとめでは、特定荷主・特定連鎖化事業者の指定基準として取扱貨物の重量9万トン以上(上位3200社程度を想定)、特定倉庫事業者は貨物保管量70万トン以上(上位70社程度を想定)、特定貨物自動車運送事業者等は保有車両台数150台以上(上位790社程度を想定)と定められました。特定事業者の基準が明らかになったことで、サプライチェーン全体への影響が大きい企業ほど、より早期の本格的な対応を迫られることになります。
「物流統括管理者」(CLO)の選任が鍵――企業と社会をつなぐ役割
特に、来年度の施行によって特定荷主事業者に義務付けられる「物流統括管理者」(CLO)(*1)の設置は、大きな注目を集めています。社内外の物流改革を総合的に指揮し、経営の重要事項決定にも関わるポジションとして期待されるためです。CLOには、共同輸配送や標準パレット運用、さらにデジタル化やモーダルシフトなど、多岐にわたる取り組みを推し進めるだけの見識と交渉力が求められます。
特定事業者となる3200社の荷主企業においては、取り組みの温度差が今後いっそう顕在化していくでしょう。法律施行に向けて、現在は準備期間に位置付けられますが、検証すべきことの多さや複雑さを考慮し、すでにCLOを中心としたプロジェクトを立ち上げて情報交換や外部連携の加速を図る企業も出てきています。CLOの職務内容が高度かつ多彩であることを踏まえると、実際の選任やシステム構築に、相当の時間とリソースが必要であることを覚悟しなくてはならないはずです。
結論――生き残るには“個社の利益”を超えた連携体制が不可欠
改正法が求めるのは単なる形式的な対応ではなく、サプライチェーン全体を巻き込んだ抜本的な改革です。個社だけで効率化を追求していても限界があり、荷主と物流事業者、さらに消費者を含めた社会全体の意識と行動が変わらなければ、持続可能な物流の未来は描けません。とりわけ、企業規模の大きい「特定事業者」は、これからの物流のあり方を先導する役回りを担うことになります。
もっとも、共同輸配送の検討や標準パレット運用など、企業の壁を越えた連携が求められるテーマは、すぐに成果を出せるわけではありません。だからこそ、CLOをはじめとする専門知識と権限を兼ね備えた人材の育成と配置もまた、同時進行で進める必要があります。「もう少し様子をみて」と考えているうちに、すでにカウントダウンは始まっています。今まさに“攻め”に転じなければ、いざ施行を迎えたときに生き残れるかどうか――ここが正念場と言えるでしょう。
*1 参考「フィジカルインターネットセンターによる提言」より
【1:CLOの定義】
「持続可能な社会と企業価値の向上を実現するため、モノの流れを基軸にしたサプライチェーンにおいて、経営視点で社内外を俯瞰した全体最適を図る役割を担う責任者」
【2:CLOに求められる3つの役割】
(1)地域社会の持続可能性を促進し、社会課題の解決や災害時の対応、カーボンニュートラルへの取り組みを通じて持続可能な豊かな社会の実現に貢献する役割
①持続可能で豊かな社会とするために社会課題を解決する役割
②BCPへの対応や災害時の社会貢献を行う役割 ③カーボンニュートラルへの対応等地域社会の持続可能性に貢献する役割
(2)サプライチェーンの全体最適実現にむけた構造的変革を伴う中長期計画の
立案と実行をリードする役割
(3)物流オペレーションの効率化計画の策定と社内外の調整により実践する役割
①リードタイムの適正化
②在庫管理の適正化と協同配送
③品質管理の強化
④リスク管理の強化
⑤技術の活用
【3:CLOに求められる職能】
(1)経営者としての視点と能力
(2)戦略的思考と決断力
(3)社内外の外交力、調整力
(4)広い視野の関心、知見
①バリューチェーンに関わる知見
②サプライチェーンに関わる知見
③物流に関わる知見
④技術動向に関わる知見
⑤物流を考慮した社会・環境問題に関わる知見