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行政処分厳格化の波――運送事業者はどう生き残るか

物流業界全般

改正改善基準告示に続く厳格化は本当に”逆風”か

政府は昨年10月1日から、運送事業に対する行政処分の基準をいっそう厳しくしました。4月の改正改善基準告示に続き、「運送事業への逆風」と捉える向きもありますが、これは本当に逆風なのでしょうか。安全の確保と公正な競争を重視する国の姿勢が浮き彫りになった今、運送事業者はこの変化を脅威と捉えるのか、それとも事業改革の好機と見るのかが問われています。

運送事業者に対する行政処分の目的は、公共の安全を守り、公正な競争を促進するだけでなく、適切な運送サービスを継続的に提供してもらうための仕組みを整えることにあります。法令違反の重大性に応じて車両使用停止や事業停止、認可取り消しといった処分が科されるため、営業制限による収益悪化、信用失墜、顧客離れなど、事業存続に直結するリスクが高まるのも事実です。

酒酔い・酒気帯び運転の指導監督義務違反に、より重い責任

今回の行政処分厳格化で注目されるのが、酒酔い・酒気帯び運転に対する処分の強化です。トラック、バス、タクシーが対象となり、これまでの「酒酔い・酒気帯び運行の業務」だけでなく、新たに「指導監督義務違反」「点呼の実施違反」に対する量定が定められました。飲酒運転そのものだけでなく、管理監督者の管理指導が不十分だった場合も厳しく罰せられる時代に突入したといえます。

LOGISTICS TODAY 2024年9月19日(木)付記事「行政処分厳罰化が10月1日施行、早急な対応求める」より

具体的には、運転者に対して飲酒運転の禁止や飲酒が身体に及ぼす影響を教示する指導を行っていなかった場合、初違反で100日車、再違反で200日車の処分が下されます。もし酒酔い運転が発覚した際、指導監督義務違反と点呼の未実施が併せて認定されれば、初違反で300日車、再違反で600日車という深刻な処分となりかねません。

車両の保有台数が少ない事業者では、たった1台が半年以上使用停止になるだけでも運送業務を維持できなくなります。実際、9割以上の運送事業者が50台以下の保有規模であり、そのなかでも10台以下の事業者が半数を占める現状を考えると、一度の違反が「業界退場」に直結してしまう可能性は高いでしょう。酒酔いや酒気帯び運転が重大事故につながりかねないことは周知の事実であり、当然といえば当然の厳しさですが、一歩間違えれば、自社の存続を左右する要因になるともいえます。

飲酒事故がもたらす代償を肝に銘じよ

昨年5月には、2歳の男の子とその父、祖父の3人が犠牲になったトラック事故が発生し、多くのドライバーが胸を痛めました。報道によれば、運送会社の事前の呼気検査ではアルコールが検出されなかったといいますが、わずかな油断が取り返しのつかない悲劇を引き起こす事実を、運行管理者は改めて痛感したはずです。厳格化された処分基準は、こうした事故再発を阻むための強いメッセージであるとも捉えられます。

勤務時間・点呼違反にも容赦なし――未遵守件数が増えるほど停止日数が上積み

今回の見直しは酒酔い運転だけにとどまらず、トラックを対象とした「勤務時間等告示の遵守違反」「点呼の未実施」に関しても処分を強化しています。これまでは未遵守件数の上限を定めていたため、たとえ違反が複数あっても最終的な停止日数に限度がありました。ところが新基準では上限が撤廃され、違反件数が多ければ多いほど停止日数が累積する仕組みに変わっています。

たとえば、従来であれば未遵守計16件の初違反で20日車が上限でしたが、改正後は32日車と大幅に厳しくなりました。点呼の未実施に関しても同様で、未遵守20件以上となると件数に応じて停止日数が加算され、事業継続が難しくなるほどの重い処分を受ける可能性が出てきます。違反が「数件だから大丈夫」という甘い見通しは通用しなくなり、管理の厳格化が企業の存亡に直結していることが改めて浮き彫りになりました。

“逆風”ではなく改革の追い風に――厳罰化による公正な競争と労働環境

こうした強化は、改正改善基準告示の時間外労働上限960時間、拘束時間や休息時間の規定などとあいまって、運送事業にコンプライアンスの徹底を求める動きの一環と見ることができます。法令を軽視し、劣悪な労働環境のまま安価な運賃で受注してきた悪質事業者にとっては大きな打撃ですが、真面目にルールを守りつつ健全な経営を目指す事業者にとっては公正な競争環境が整うことを意味します。

国土交通省が行政処分の厳罰化を予定より3か月前倒しで実施した背景には、業界全体からの「悪質な事業者を排除し、きちんとコストをかけて安全と労働環境を守る事業者が正当に評価されるようにしたい」という声もあるようです。社会的信用のある運送事業者こそが未来の物流を支えられるという信念が、今回の見直しに込められているのです。

運送事業者に自助努力を求めるだけではなく、荷主による違反原因行為などへの監視体制も強化されています。政府は、荷待ち・荷役時間改善に取り組まない企業、価格転嫁に非協力的な企業に対しては、国交省のトラック・物流Gメンのほか、公正取引委員会なども商慣習改善として取り組む姿勢を示しており、適正な運送事業者にとっては後押しとなるはずです。物流改革に取り組む運送事業者にとっては、決して逆風ばかりではないのです。

デジタル活用と法令遵守の先の持続的成長――事業の未来像をどう描くか

改正改善基準告示の内容を理解し、管理者とドライバーがともに効率的な運行計画と法令遵守を実行することは、もはや避けられない命題となりました。事業継続や成長戦略を考えるうえでも、デジタルタコグラフや運行管理システム、点呼システム、労務管理ソフトなどのデジタルツールを有効に活用することは必須です。自社の状況を把握しながら最適なツールを導入するプロセス自体が、変革への第一歩になるでしょう。

政府も安全確保と管理効率化を図るための制度見直しを進めており、業務前の点呼自動化や運行管理の高度化など、さらなるDXによる合理化が求められる時代に突入しつつあります。共同配送や荷主との適正な運賃交渉を進めるためにも、各社が蓄積する正確なデータと分析力が強みになるでしょう。中小企業であってもDXと無縁ではいられないという現実が、ここにきて一段と明白になったと言えます。

この4月からは改正物流効率化法の施行も始まり、荷主にも効率化の取り組みが課されるようになります。さらに、改正基準告示施行後1年が経過すれば、運送事業者がどれほどの成果を上げたかが実感を伴って示される段階に入っていくでしょう。社会の物流を支えているのは、誇りをもって働く運送事業者と、その活躍を支援する荷主や関係者全体にほかなりません。では、法令遵守を基盤にどのような事業の未来像を描き、実行に移していくのか。今がまさに、その勝負のときです。

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