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明らかになるCLOの人物像と必要な6つの能力
—第四回物流議論イベントレポート【後編】—

物流業界全般

前編の議論は、CLOの責務が「法令遵守」「合理的なコストの最適化」「ステークホルダーマネジメント」という3つであるとして、大まかな合意を得ました。後編では野村不動産の宮地伸史郎氏を加え、CLO設置の具体や、その人物像について議論が交わされた内容をお伝えします。

稲葉英毅氏(野村不動産 都市開発第二事業本部 物流事業部長)
宮地伸史郎氏(野村不動産 都市開発第二事業本部 物流事業部 副部長)
池田祐一郎氏(シグマクシス ビジネスデベロップメントシェルパ2 ディレクター)
大野有生氏(東京海上スマートモビリティ 取締役 兼 東京海上ディーアール CDO)
赤澤裕介氏(LOGISTICS TODAY編集長)

CLOを支えるチームビルディングと、必要な6つの能力

前編では赤澤氏がCLOの3つの責務について言及し「すべてを1人でこなすのは不可能ではないか」といった趣旨の疑問を投げかけました。

CLOに求められる6つの能力

これに対し池田氏は「CLOとは必ずしも個人を指すものではありません。組織全体でCLOの機能を果たすこともできます」と示唆します。同氏はCLO、あるいはCLO組織に必要な能力は「リーダーシップ」「ファイナンス」「IT・データ分析」「プロジェクト管理」「サプライチェーン管理」「ロジスティクス」の6つだと語りました。これに対し、各登壇者はそれぞれの意見を述べました。

イベント後半ではCLOに求められる能力が議論された。

大野氏

私も池田さんに概ね同意ですが、あえて濃淡をつけるなら「リーダーシップ」と「プロジェクト管理」が重要なのではないでしょうか。大規模なプロジェクトをけん引するには人間力が必要です。私は現場をよく知っている物流部長みたいな、みんなに好かれていて、求心力のある人が理想だと思いますね。特に日本の物流は現場をすごく大事にしますから、そういう方が向いてるんじゃないかと思います。

池田氏

実は私も「リーダーシップ」と「プロジェクト管理」が、特に重要だと考えています。会社の仕組みを変えるには、戦略を描き切り、社内外でそれを推し進めなくてはいけません。これはものすごく「腕力(やりきる力)」が要る作業で、上に挙げた2つの素養がなくてはやり抜くことができないと思います。

こうした議論を受けて、野村不動産の稲葉氏、宮地氏もCLOのあるべき姿について意見を述べました。

稲葉氏と宮地氏、赤澤氏も私見を披露した。

稲葉氏

池田氏同様、私がCLOに求めたいのは「腕力」ですね。6つの能力のなかには、他の誰かにお願いできるものも多いと思うのですが、プロジェクトを推進していく役割だけは人任せにできない気がします。

宮地氏

私はCLOにはEQ(心の知能指数)も求められている気がします。情報をシェアしてもらうためにも、CLOは物流に関わる企業や人と上手に付き合う必要がありますからね。私はEQとIQ(知能指数)のどちらも兼ね備えた、良い意味で二面性のある人を推しますよ。

赤澤氏

みなさんの意見を総合すると、CLOに必須の能力はプロジェクト管理(腕力)、リーダーシップということに尽きる気がします。そこにEQが加われば、なお良いといった形でしょうか。

CLOを体現する、3人の実業家

議論を重ねるうちに、徐々にCLOの人物像が明らかになってきました。池田氏によると、CLOは欧米では比較的ポピュラーな役職とのこと。池田氏はCLOとしてキャリアを築いた有名な3人の実業家を例にとり、その輪郭をさらにシャープなものにしていきました。

まず名前が挙がったのはアップルのティム・クック氏。前編でも紹介しましたが、クック氏はスティーブ・ジョブズの後継として知られる辣腕経営者です。同氏はファイナンス・財務に強く、物流を含めたSC全体を整理し直し、経営改善につなげました。

続いて池田氏は、パソコンメーカーとして広く知られるデルのマイケル・デル氏について言及しました。同氏はDtoC(Direct to Consumer)モデルをつくったことで知られています。社内・サプライチェーンに声が通る人材として、メーカーがユーザーに直接商品を届ける仕組みを整備したことは、一種の物流改革ともいえるでしょう。

最後の1人は世界最大級のスーパーマーケットであるウォルマートのCEOダグ・マクミロン氏です。同氏のウォルマートでのキャリアは、トラックの荷下ろしのアルバイトから始まりました。マクミロン氏のケースは、物流現場をよく知る人物が、現場を改革した好例です。以前、池田氏がウォルマートの役員に物流の内製化について聞いたところ、全米最大の物流会社並みに強化をしているとのこと。池田氏は「大企業ほど、想像を超えた領域で物流を捉えていることが多いものです」と語ります。

CLOは物流業界への若手の呼び込みにつながるか

ここまでは「CLOが機能し、SCが最適化される」という、スケールが大きく、夢のある話題が続いてきました。これに疑問を呈したのは稲葉氏です。

稲葉氏

CLOの重要性は理解できましたが、ネガティブなイメージも根強い日本の物流業界に、適する優秀な人材がこれからも集まりそうでしょうか?

この問いかけに対し、大野氏は前向きな展望を示します。

大野氏

私はむしろCLO設置を千載一遇のチャンスと捉えているんです。若者にとっては、経営層につながる分かりやすいラダーができたと思います。それに今は物流にまつわるビジネスチャンスが増えていますし、EC(電子商取引)の発達で若い人にとって物流が身近なものになっていますよね。物流をまったく知らない人が現場にキャッチアップして、5年もすれば立派なCLO候補になる、私はそういう仕組みをつくりたいと思っています。私は「かっこいいぜ、物流!」をキーワードに、若者の業界参入を後押ししたいんです。

イベントを通じてCLOの責務や人物像をクリアにしてきた池田氏も、大野氏の意見を支持しました。池田氏は物流の分業・協業による相互発展を目指す異業種コミュニティ「エコオケの会」を主催しています。

池田氏

私はすでに、次世代を担う若手の登場を予感しています。実は今日も、エコオケの会の大学生が来てくれているんですよ。

うれしそうに会場に目を向ける池田氏。その隣で大野氏が畳みかけます。

大野氏

「かっこいいぜ」といったポップな表現で物流をアピールしても、世間が受け入れてくれる時代がようやく訪れました。再配達への理解もすごく深まっています。

CLOを経営アジェンダにまで昇華できるとしたら、これはものすごいチャンスですよ。

CLO設置はチャンスと捉えることもできる。

赤澤氏

たしかに「義務だから」と仕方なしにCLOを設置するのはもったいないですよね。どうせなら「かっこいいぜ、物流!」を体現するような、企業に活力を与えるCLOを選任したいものです。そのためにも、まだまだ具体的なことを話し合う機会が必要だと感じます。

話し合いの場が必要、という赤澤氏の発言を引き取ったのは宮地氏でした。

宮地氏

赤澤さんのおっしゃる通り、コミュニケーションの機会が増え、活発な意見が交わされるほど、CLO設置の要件はよりクリアになっていくはずです。野村不動産はそのお手伝いをするべく、「CLOサロン・懇親会」のようなものをつくろうと思っているので、興味がある方はぜひご連絡ください。

イベントの終盤、大野氏は物流業界のこれからについても言及しました。

大野氏

設置を義務付けられた3200社すべてが、スムーズにCLOを選任できるとは思えません。場合によっては候補者がいない企業があってもいいと思います。社内でまかなえない部分は野村不動産のような大手デベロッパー、東京海上のような保険会社が社外から支えます。ただし、援助を頼む場合でも情報交換は必須です。社内外できちんとコミュニケーションがとれれば、2025年はCLOチームをつくるための1年にできると思います。

引き続き、物流議論のセミナーでは、次回以降(2025年3月以降)も今後のCLOの選任に関わる情報を発信していく想定とのことだ。「かっこいいぜ、物流!」が物流業界のイメージとして浸透する日も決して遠くない未来のようである。

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