設置義務化間近。CLOに求められる3つの責務とは
—第四回物流議論イベントレポート【前編】—
2024年12月5日、野村不動産は物流の専門誌「LOGISTICS TODAY」と「第四回物流議論」と称するセミナーイベントを開催しました。
今回は2026年に選任が義務化される「CLO」(物流統括管理者)について、有識者が熱い議論を交わしました。CLOについては物流事業者間はもちろん、荷主企業の間でも関心が高まっています。
しかし、CLO設置の意義や要件、求められる責務や能力、人物像は依然あいまいなままです。この記事ではCLOの輪郭を明らかにする試み、その議論の様子を、前後編にわたってお伝えします。
池田祐一郎氏(シグマクシス ビジネスデベロップメントシェルパ2 ディレクター)
大野有生氏(東京海上スマートモビリティ 取締役 兼 東京海上ディーアール CDO)
赤澤裕介氏(LOGISTICS TODAY編集長)
CLO選任義務化のねらいとは
まずはCLOの定義を整理しましょう。
CLOとは「Chief Logistics Officer」(チーフ・ロジスティクス・オフィサー)の略です。
CLO設置が義務化されるのは2026年4月からとされています。対象となるのは年間取扱貨物量9万トン以上の発・着荷主と連鎖化事業者(フランチャイズチェーンの本部)で、その総数は3200社程度になる見込みです。
国土交通、経済産業、農林水産の3省合同の取りまとめ案では、CLOの概要や、担うべき業務が示されました。取りまとめ案のなかでは、CLOを「調達、生産、保管、販売等の過程と調整」を行う、「事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位」と位置付けています。
つまり、CLOには物流はもちろん、調達や製造などの製造部門や営業部門に至るまで、サプライチェーン(SC)全体を俯瞰する責任と能力が求められているのです。会社経営に関わる非常に重要な決定を下す必要があるため、取りまとめ案でも「重要な経営判断を行う役員等の経営幹部から選任されることが必要」としています。
荷主はこれまで自社製品を計画通りに運ぶことにこだわるあまり、現場に多大な負担をかけてきたという見方もあります。立場が弱い運送事業者の多くは、非合理的なリードタイム(荷待ち)や、無理な配送計画を受け入れるしかありませんでした。
要求を満たし、一度に少しでも多くの荷物を運ぶため、積載効率が下がるパレットは使わず、ドライバーに手積み・手下ろしを強要する事業者も少なくありません。反対に積載効率は二の次にして、非効率的な配送を繰り返し行う事業者もいます。その結果、輸送力の低下が叫ばれるほど現場が疲弊してしまったのです。
政府には、CLO選任を義務化することで荷主が物流を我がこととして捉える、意識と行動の変容を促すねらいがあると推測されます。
CLOに求められる3つの責務
イベントではまず、物流関連のコンサルティングを行う池田祐一郎氏が、CLOに求められる責務を解説しました。同氏はCLOの責務として「法令遵守」「合理的なコストの最適化」「ステークホルダーマネジメント」を挙げています。
池田氏は「法令遵守がCLO設置の一丁目一番地」としながらも、「法令を守ると物流のコストは上がる」と話します。なぜなら従来の物流は、コンプライアンスが十分に守られているとはいえない、厳しい労働環境に支えられてきたからです。
法令遵守の体制下では、一方的な値下げ交渉などもってのほかなため、CLOは物流の最適化によるコストダウンを図る必要があります。これが2つ目の責務「合理的なコストの最適化」につながっていきます。
物流に限らず、業務コストを最適化するには自社のみならず、他社も巻き込んだ大々的な取り組みが必要になります。そうしたときに必須なのが、第3の責務「ステークホルダーマネジメント」です。さまざまな利害関係者(ステークホルダー)と交渉し、合意を得られなければ、コストの最適化は実現できません。
池田氏はCLOに求められる責務の重大さに言及し、日本ではまだ「物流部門の責任者=CLO」と考えている事業者が多いことを指摘しました。「今の日本では物流の責任者とCLO、CSCO(チーフサプライチェーンオフィサー)が混同されています。社内外のステークホルダーを説得し、改革を押し進めるのは、SCの上流に位置するCLOやCSCOの役割です。また、欧米では『CEO(最高経営責任者)の登竜門』といわれるほど、CLOはポピュラーな役職でもあります。必ずしも物流の責任者=CLOではありません」(池田氏)
池田氏はCLOに求められる責務をさらに具体的にするため、例として欧米の実業家の名前を2つ挙げました。
1人目はスティーブ・ジョブズの後を継いでアップルのCEOに就任したティム・クック氏です。クック氏は財務に強い人物でしたが、就任以降は、サプライチェーンの合理化をはじめとしたさまざまな改革を行いました。2人目は世界最大規模のスーパーマーケット「ウォルマート」の現CEOダグ・マクミロン氏です。同氏はトラックの荷下ろしのアルバイトから、CEOにまで登り詰めました。まったく異なるバックグラウンドを持つ両名に共通しているのは、物流を含めたSC全体を俯瞰し、業績アップにつなげたことです。
当日、イベントに登壇していた東京海上スマートモビリティの大野有生氏も、CLOに対する池田氏の認識を強く肯定しました。
「LOGISTICS(物流)という英語はもともと、“兵站(へいたん)※”という意味です。第二次世界大戦でLOGISTICSの重要性を認識したアメリカでは、必ずといっていいほど執行級の役員が物流に関わっています」(大野氏)
(※戦場で後方に位置して、前線の部隊のために、軍需品・食糧・馬などの供給・補充や、後方連絡線の確保などを任務とする機関の意)
物流の担い手が変わるとき
CLOが果たすべき責務が明らかになるにつれ、登壇者からは「日本の物流の担い手が変わるのではないか」といった意見が出始めました。
LOGISTICS TODAY編集長の赤澤裕介氏は「現状を踏まえると、これからは荷主が3PL(サードパーティロジスティクス)に物流を丸投げすることはできなくなります。だとすると3PLに代わる物流の担い手が必要になるのでは?」とコメント。
これを受けて池田氏は「3PLが従来のようには機能しにくくなりつつある今、新しい仕組みを提供できるプレイヤーが物流の担い手になると思います。近い将来、物流は労働集約型から装置産業型に変わります。そのときには装置(自動化機器)に投資できるプレイヤーが存在感を増すでしょう。SIer(システムインテグレーター)や総合商社はもちろん、不動産デベロッパーもその例外ではありません」と話し、同席した野村不動産の稲葉英毅氏に水を向けました。
稲葉氏は「不動産デベロッパー=将来の物流の担い手」といった説に対して「われわれは物流の色に染まっていない中立的な立場にあります。そのためテナント企業同士がつながるネットワークを構築したり、施設を通じた交流を促進したりはできると思います。特に、倉庫内をどのように運営するか?というところは自動化・機械化の知見も持ち合わせながら提案をしないといけなくなってきており、企業間共創プログラムTechrum(テクラム)にて協働するパートナー企業と共に提案する機会も増えています。業種・業態を超えた協働にはさまざまな障害もありますが、課題をクリアできればデベロッパーの役割も広がっていくのではないでしょうか」と論じました。「ステークホルダーのまとめ役」という意味では、不動産デベロッパーもCLOの機能を一部肩代わりすることができるかもしれません。
CLOの責務については大まかな合意が得られたものの、赤澤氏は「私はまだ、CLOの具体的な人物像を描けていません。3つの責務をこなせる人物を、3200社が一人ずつ用意するなんてことが、果たして本当に可能なのでしょうか」と疑問を投げかけました。これを受け、後編ではCLO設置の具体に迫る議論が展開されます。(後編に続く)