物流施設が新たな使命を担った2024年
2024年1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」は、北陸地域に多大な被害をもたらし、新年の当たり前の風景がガラリと変容させてしまいました。
日本で暮らす人々にとって、自然災害は他人事ではありません。阪神淡路大震災、東日本大震災、熊本地震など、どれも生々しい記憶として刻まれているだけに、被災地の状況を思いやるだけではなく、自分の身に置き換えて考えた人も多いことでしょう。
被災地支援で浮き彫りになった物流の重要性と教訓
被災地からいち早く報告されたのは、道路の寸断などによる物流の混乱でした。物資を求める切実な声に、届けることができない悔しさ、もどかしさを感じた物流関係者や、自社の物流網に置き換えてリスクを検証した人も少なくないはずです。
そんな混乱のなかでも、多くの物流関係者が、震災発生直後からいち早く、被災地支援に取り組まれていました。全日本トラック協会、石川県トラック協会による県の広域物資拠点、市町の物資拠点への配送協力や、ヤマト運輸、日本通運による市町物資拠点での荷捌きや物資管理でのサポート、さらに、県下に拠点を持つ西濃運輸、佐川急便、トナミ運輸、トヨタ自動車、ダイハツ工業など、各避難所などでの荷捌きや物資管理に協力し、ラストワンマイルの配送にも貢献するなど、緊急時に物流関係者の力を発揮したことが報告されています。大量の入荷物資の荷役や整理、在庫管理や配布など混乱する現場での効率的な運営は、被災者にとってどれだけ心強いサポートとなったことでしょう。あらためて、被災地支援に尽力したすべての関係者に敬意を表します。
震災で得た教訓から、物流の課題とこれからを検証する
さて、この震災で得た教訓は多く、その中には物流における課題とリンクするものも少なくありません。
例えば、市町の物資拠点ごとの要望に対する的確な物資の調達と輸送調整では、震災発生当初は手書き書類を撮影してメールで共有するなどのアナログ運用で混乱が生じたといいます。のちに、「物資調達・輸送調等支援システム」活用による避難所状況管理、調達状況管理、在庫管理などに切り替えて効率化を実現。また、避難所単位の物資ニーズにはこのシステムではなく、独自のアプリや聞き取りでのニーズ集約で対応するなど、現場状況に応じた柔軟な運用が機能したと検証されています。
こうした事例は、物流における倉庫管理システムや運行管理システムなどの効率化ソリューションでのデータ管理、見える化を想起させるものです。自社の物流オペレーションが緊急時にどのように機能するかを検証することは、現時点での効率化の進捗度の検証とも相関関係があるのではないでしょうか。
震災当初のプッシュ型支援による必需品の大量配送から、時間を経て現場ニーズに合わせたきめ細かな物資、多品種配送体制への切り替えなども、EC需要で変化する物流オペレーションの運用改善と重なります。適切な管理ツールの整備、荷役機器や人材の配置、入荷登録・管理における商品情報の標準化や画像読み取り技術の進化、誰にでも使いやすい端末操作性などは、物流領域での継続した見直しが進められており、解決すべき課題そのものです。
また、荷捌き現場ではパレット積みでない物資の人力による荷下ろし、バラバラな荷姿などが大きな負荷になったことが報告されています。パレット物流、標準化の必要性はこうした場面からも検証できるのではないでしょうか。
道路の寸断などに対応する多様な輸送モード、ドローン輸送の社会実装なども問い直されます。平時からドローン物流に取り組むことで社会受容性を確保した有事での初動迅速化や、ドローン物流の運航事業者と自治体との間において、事前に災害協定等の取り決めを締結しておくことなど、今後、防災観点での物流ドローンの普及支援も必要です。また、今回の能登半島北部エリアの物資輸送には、RORO船(*)による海上輸送も活用され、物流事業における輸送ルートの複線化の重要性、モーダルシフトなどより強靭な物流網構築を考える契機となるはずです。
(*)RORO船とは、貨物を積んだトラックやシャーシ(荷台)ごと輸送する船のこと。トラック、トレーラーが自走で乗り(ロール・オン)、降り(ロール・オフ)して荷物を積載する。
物流施設の機能を生かした地域連携が育む、物流への期待
災害対応において物流施設の役割が重要なのは言うまでもなく、拠点の選定ではBCP(事業継続計画)対策を重視する企業も増えています。施設提供者にとっては、ハザードマップから想定されるリスクの管理、大規模な災害下でもテナント企業の事業継続に必要な機能を備えておくことは重要な任務であり、免震機能や耐震機能、非常時の電源確保はもちろんのこと、地域の災害時の避難拠点や物資拠点として備蓄食料を確保するなど、地域の自治体らと防災協定を結ぶことでも、その機能を地域支援で広く活用することも期待されます。
デベロッパーにとっては、入居企業の事業停止が、地域経済への深刻な悪影響を及ぼさないこと自体も復興支援の取り組みであり、まずはそこで働く人々の安全を守ることを最優先として、施設が入居企業の中心となって緊急時対応を策定しておくことなども求められます。交通渋滞やCO2排出などで嫌悪施設となりかねない物流施設ですが、そこにあることが地域の安心につながるような地道な活動、自治体など地域との連携強化こそが、物流業界への理解と期待、入居企業の価値向上にもつながることでしょう。
施設の入居者側にとっても、施設の分散配置などBCP観点での拠点編成が、万が一の事態での対応力の差となります。スタッフの安全を確保して、事業の継続、必要なサービスを途切れさせないことが求められます。災害はいつ我が身に降りかかるかわからないからこそ、企業としてその備えができていないことは、不運ではなく、ただの怠慢と捉えられかねないと認識すべきです。
日頃の取り組みが災害対応につながり、物流の真価が問われる
自然災害とともに生きるという宿命を背負い、さらにサイバー攻撃、システム障害なども深刻なリスクとなりつつあるのが日本の物流業界です。物流に携わるものにとって、万が一の事態に日頃の力を発揮できないようであれば、どれだけ悔しい思いをすることでしょう。
非常事態においても「物流」にはできること、やるべきことがあり、それは日頃の業務や効率化の試行錯誤の延長線上にあります。物流業界の誇りと知見で、いざという時にどんな対応ができるかに、「物流業界の真価」が問われます。