物流業界にとっての「2025年の崖」とは
「2025年の崖」というキーワードを聞いたことがあるでしょうか? 「2024年問題」に続いて、物流業界を含む日本経済全般が直面する課題を示した言葉です。
2025年の崖という言葉は、2018年の経済産業省「DXレポート」で初めて紹介されました。国内企業の事業継続と成長においてDX(デジタルトランスフォーメーション)が必須であるとして、デジタル技術による業務効率化が実現できない場合には、2025年度から年間で現在の約3倍、約12兆円もの経済損失が発生する恐れがあることを、2025年の崖というキーワードで注意喚起したものです。2025年ですから、まさに今私たちは崖の端っこに立ちすくんでいるイメージでしょうか。
DXレポートが日本企業の事業成長の課題、経済損失の要因としたのが、「レガシーシステム」に頼る業務環境です。各社が運用している既存の基幹システムやソフトウェアなどが、基本性能や処理能力などにおいて時代遅れとなっているのに、その見直しや更新ができない生産性の低いままのシステム、レガシーシステムとして、その運用に頼るらざるを得ない事業運営が、市場での競争力を失う要因だと指摘し、経済損失という形で顕在化がまさに今年から本格化するというのです。
特に投資力のある大企業が先行してデジタル化した基幹システムなどは、20年以上の運用に及ぶものも多く、技術的な負債となっていることが危惧されています。既存システムに対して、それぞれの企業に合わせた個別最適化、保守や修正などを繰り返し、対症療法的な対応に人的リソースを割いてきたことで、技術の進歩に対応できず改修もできないシステムとなってしまっているケースも少なくないでしょう。担当者の高齢化による退職などもブラックボックス化を招いており、今後ますます加速する恐れがあります。
基幹システムとなれば、そのリプレイスには大胆な投資と業務の見直しが伴い、勇気のいる革新であることは間違いありません。また、DXを計画的に推進できるような人材を社内に確保していない企業では、継続的な革新を社内で主導できるような体制も整っていないはず。アウトソーシングによるコスト増加となれば、ますます取り組みを躊躇することとなり、2025年の崖が現実のものとなります。
物流業界が直面するレガシーシステムの課題とは
物流業界では、「2024年問題」に比べて、2025年の崖への認識はあまり高くないのではないでしょうか。DXという言葉自体、ようやく一般化し始めたという段階です。DXレポートが紹介された2018年というタイミングにおいて、すぐに既存システムからの運用転換、本格的なDXに取り組むことができた物流事業者は多くないでしょう。
しかし、物流業界においてもDXを先行した企業ほど、個別最適化、ブラックボックス化に陥り、当時は先進的だったシステムも現在ではレガシーシステムとなっている恐れがあります。運用システムが今後の標準化などの足かせになっていないか などは、検証しておかなければなりません。
例えば、WMS(倉庫管理システム)は倉庫領域で比較的早いタイミングからの導入が進められたソリューションですが、多品種少量オペレーションの迅速化など急速に変化する物流への対応、自動化マテハン導入、連携するソリューションの増加などに合わせた改修を繰り返すことで、保守コスト増やWMSの肥大化による機能低下を招いている事例なども、物流にとっての2025年の崖といえます。
これまでデジタル化に先行して取り組んできた物流事業者にとっては、既存ツールが時代遅れとなり、中国など新興の野心的DXとの差が際立つ皮肉な状況だと言えるかもしれません。それでも、現状の事業課題とデジタル技術に関する知見を更新し、これからの時代に備えたシステムの刷新、巻き返しの取り組みを続けなければ、国内外との競争で優位性を保つことはできません。まずは社内機構や人材育成も含め、絶え間ない変化に備え、サイバーテロなども想定した社内体制を整えておくことこそ、これまでの取り組みを教訓とした事業見直しといえます。ますます激化するであろう社内DX人材確保への備えも急務です。
中小運送事業の生き残りにDXは避けて通れない
運送事業のほとんどを占める中小企業にとっても、DXは無関係ではありません。新しい働き方や改正法への対応、適正運賃の収受や契約条件の明確化と業務効率化など、行政の目指す物流インフラ維持には、DXによる業務効率化ができる事業者とできない事業者の選別というシビアな側面も見受けられます。IoT技術やAI技術、クラウドサービスの目覚ましい進歩や、自動化機器のシェアリングサービス提案などデジタル化の選択肢は増えています。運転手確保のためのコスト投資と同様の切迫感を持ってデジタル化投資に踏み切ること、コストを言い訳にしてDXを先延ばしにするのではなく、今できる効率化・デジタル化が何かの具体的な決断が求められるこの局面は、まさに今崩れつつある場所から次の足場に飛び移る覚悟を決めるという、中小運送事業にとっての2025年の崖だといえるでしょう。
DXレポートには、DX推進に向けて「見える化」「協調領域」「共通プラットフォーム」という現在の物流革新におけるトレンドも提起されています。自社課題の可視化はもちろん、外部連携の推進においてもDXによる見える化は必須であり、スムーズなデジタル連携への対応を整えておかなくては、さらにその先に取り組むべきフィジカルインターネット、標準化の枠組みなどに参画できない事態となりかねません。デジタル化するか しないか ではなく、事業成長に必要なデジタル化、そのために今すべきことは何かを考えることに、勝ち残る事業者の取り組みは移行しているのです。