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野村不動産が考える、CLO選任の要件

メディア掲載記事

物流業界は今、「100年に一度」とも言われるほどの大変革期を迎えています。2024年問題を受け、輸送力の低下が確実視されるなか、直近30年間機能してきた3PL(サードパーティ・ロジスティクス)の仕組み自体が見直しを迫られているのです。

3PL事業が従来の役割を果たせなくなりつつある今、政府は各荷主に物流統括管理者(CLO)の選任を命じました。しかし、今まで物流を我がことと捉えず、外部に丸投げしてきた荷主によるCLOの選任は困難を極めています。

CLOに求められることは何なのか、そもそもどうしてCLOが必要になったのか。今回は物流業界における喫緊の課題「CLO選任」の要件について、野村不動産株式会社 物流事業部長の稲葉英毅氏、株式会社シグマクシス ディレクターの池田祐一郎氏、物流のニュースサイト「LOGISTICS TODAY」編集長の赤澤裕介氏がトークセッションを行いました。

また、この取材をきっかけに野村不動産とLOGISTICS TODAYが共催する「第四回 物流議論」というイベントが2024年12月5日に行われることが決定しています。

第四回物流議論

※12月5日(木)・6日(金)「物流大再編時代」+「物流議論拡大版」合同開催決定。詳細は後日発表。

<右>株式会社シグマクシス ビジネスデベロップメントシェルパ2 ディレクター 池田祐一郎氏。
<中央>野村不動産株式会社 都市開発第二事業本部 物流事業部長 稲葉英毅氏。
<左>LOGISTICS TODAY編集長 赤澤裕介氏。

CLOはサプライチェーンを俯瞰し、統括する ”オーケストレーター”

赤澤裕介氏(LOGISTICS TODAY編集長)
本日はよろしくお願いいたします。池田さんはCLOの要件をどのようにお考えですか。

池田氏は物流のエコシステム化を企図する異業種交流会「エコオケの会」主催者でもある。

池田祐一郎氏(株式会社シグマクシス ビジネスデベロップメントシェルパ2 ディレクター)
よろしくお願いします。私はCLOの要件は大きく2つあると考えています。1つは持続可能な物流を構築するために、きちんと契約を履行する、言い換えれば良い意味で運送事業者を管理すること。もう1つは荷主が自社業務として物流をやることによって生じるコストをいかに最適化するかということ。物流を一部アウトソーシングしながら、我がこととして捉える、相反する2つのことを同時にやらなくてはいけないところに、CLO選任の難しさがあります。

赤澤氏
なるほど。荷主企業が物流をどう捉えるかを考えることが、CLOの役割を考えることにつながる、というわけですね。その根底には、”本来、物流は荷主が担うべきもの”という考えがあるように感じます。一方、直近30年ほどは、荷主から物流を丸ごと受託する3PL事業者が台頭した時代でした。3PLが巨大物流施設の建設を進めるなか、その供給元として不動産デベロッパーが物流業界に立ち位置を見出しましたね。稲葉さんはそういった流れをどう見ていますか。

野村不動産の物流事業立ち上げから参画する稲葉氏。

稲葉英毅氏(野村不動産株式会社 都市開発第二事業本部 物流事業部長)
はい、赤澤さんのおっしゃる通り、30年ほど前から物流不動産という市場が日本に誕生しました。この市場はずっと右肩上がりに成長していて、2023年には首都圏で90万坪も物流施設が供給されています。私はここ30年でそれぞれの役割が明確になったと感じています。荷物を持っている荷主、物流を請け負う3PL、施設を供給する不動産デベロッパーといった構図ですね。


赤澤氏
ところが今、長い時間をかけて明確にされてきた役割分担が変わりつつある、と。そのなかでCLOという新しい役職が誕生したわけですが、池田さんはCLOにはどのような役割が与えられると考えますか。

池田氏
私はCLOには「オーケストレーター(サプライチェーン全体を指揮するプロデューサー)」的な役割が期待されていると思います。

赤澤氏
全体を俯瞰し、統括するのがCLOの役目ということですね。今日はそのあたりのお話をさらに深掘りしていきましょう。

不動産デベロッパーは物流の担い手になり得るか

池田氏によると3PLが日本に導入されたのは1995年ごろのこと。荷主企業は物流をアウトソーシングすることで他の業務に注力することができ、3PL事業者は物流のノウハウを蓄積しつつ、安定した経営基盤を確保することができました。30年間機能し続けたこの仕組みは、日本の物流を下支えしてきたといっても過言ではありません。

しかし現在、3PLというビジネスモデルは変革を迫られています。その理由として池田氏は物流が「後さばき」の仕事から「前さばき」の仕事に変化しつつあることを挙げています。

3PLの登場は物流業界に大きなインパクトを残した。(シグマシス提供)

従来、3PL事業者は荷主から荷物を受け取った”後”、人海戦術で荷をさばいていました。ところが人手不足やドライバーの時間外労働の上限規制などが重なり、頭数を頼りにした荷さばきは年々困難になりつつあります。そうなると荷物が生じる”前”に行動を起こし、先んじて投資を行う必要が出てきますが、今の3PLにはそういった機能が備わっていないのです。

こうした状況を分析して池田氏は「指揮者たるCLOには物流を俯瞰する能力が求められます。一人ですべてをこなすというよりは、”誰と、どういった未来を目指すか”というビジョンを持つことが重要です」と話します。しかし、池田氏は「荷主企業のほとんどは、CLOに求められる資質が何かを探るところからのスタートです」と言います。長年、物流を外部に委託してきた荷主企業では、物流に関するノウハウは不要で、CLO的な人材を育成する理由もきっかけもありませんでした。ここに来て、3PLに物流をアウトソーシングしてきた影響が表れ始めたというわけです。

池田氏の発言を裏付けるデータを提示したのは赤澤氏です。同氏によると、「政府の命令を受けてCLOを設置した荷主企業は全体の4%程度(LOGISTICS TODAY調べ)」とのことでした。「下請法の適応対象に荷主を含めるといった話も出てきているなか、CLO設置は喫緊の課題です。しかし、当事者であるはずの荷主企業は誰をアサインすればいいのか、まったく見当がついていません」(赤澤氏)

CLO選定が困難を極めるなか、池田氏は野村不動産のような不動産デベロッパーが物流の担い手になる可能性があることを示唆しました。「CLOをはじめとする物流の担い手には物流を効率化することで得られるメリットをしっかり数字に落とし込んで、経営陣にアピールする能力が必要です。不動産デベロッパーにはそのノウハウがあるのではないでしょうか」(池田氏)

これを受けて稲葉氏は「今後、データさえそろえば、『野村不動産の施設を利用してくれれば、○○%の効率化ができますよ!』といった提案もできるはずです」と話しました。

野村不動産は土地・建物の提供にとどまらず、いかに荷主企業に寄り添うかを大切にしてきました。数々の取り組みのなかでも、特に目を引くのが”企業間共創プログラム”「Techrum(テクラム)」です。テクラムは倉庫作業の効率化に寄与する企業の集まりで、主に自動化機器のレンタル・リースを行います。2024年10月時点で、登録社数は100社を超え、野村不動産の物流部門を象徴する一大プロジェクトに成長しました。野村不動産はその他にも人材募集支援や空き床支援などを行い、各荷主ごとに異なる課題に寄り添う努力を続けています。

テクラムは荷主ごとに異なる課題に寄り添う。

3PL主導の時代、物流施設に求められるのは”汎用性”でした。複数企業の業務を請け負う3PL事業者は、より多くの荷主にフィットする汎用的な物流施設を求めます。3PLが物流を一括で請け負っている間は、不動産デベロッパーもそれぞれの荷主にコミットする必要はありませんでした。しかし、各荷主が自社の物流に責任を負う時代になった今、不動産デベロッパーに求められることも変わりつつあると稲葉氏は語ります。「従来の物流施設は、荷主にとって70点の仕様で十分でした。しかし、これからの物流はそれぞれの課題に即した80点、90点のスペックが求められます。そのためにわれわれは物流施設をカスタマイズしているのです」(稲葉氏)

実際、野村不動産は「カテゴリーマルチ」という考えのもと、マルチテナント型物流施設と、BTS(オーダーメイド)型物流施設を組み合わせた倉庫形態を提案しています。これはあらかじめ使われ方を想定した上で、倉庫の一部区画を設計するというものです。まさに物流を俯瞰し、先手を打つ、CLO的な施設設計といえるでしょう。

カテゴリーマルチはあらかじめ使われ方を想定した倉庫形態。

課題は”物流というブラックボックス”をいかに開くか

ここまでは、CLOが「物流を俯瞰し、統括するオーケストレーター」であり、不動産デベロッパーが物流の担い手になり得る可能性が検討されました。また、3PLというビジネスモデルが十分に機能しなくなってきていることが、CLO設置を促したことも確認されました。CLOを擁する荷主、そして不動産デベロッパーが担うべき役割はある程度明示されたように思います。

ところで物流の現場には、もう3PL事業者の居場所はないのでしょうか。池田氏はこの問いに「ノー」と答えます。「3PLが登場する前は荷主が直接物流を行うか、一部を運送会社に任せるかといった形しかありませんでした。それを丸ごと引き受けて元請けになる仕組みをつくった3PL事業者には、他にない課題解決力があります。それはどんなアルゴリズムを注ぎ込んだテクノロジーでも再現不可能なことです」(池田氏)

ただし、同氏は3PLも進化を迫られていることを強調します。「人もトラックの数も減っていくなか、物流に割けるリソースは確実に先細りしています。3PLも蓄積してきたノウハウをある程度オープンにすることが求められています。”物流というブラックボックス”を外に向けて開いていかない限り、3PLが活躍できる場は他者に奪われかねません」(池田氏)

池田氏の「ブラックボックス」という言葉に敏感に反応したのは赤澤氏でした。「ブラックボックスならまだしも、物流業界は”暗黒大陸”と呼ばれることもありますよね。そうした呼ばれ方をすること自体が、われわれが自分の業界に誇りを持ちにくくしている要因の一つな気がします」と赤澤氏。その上で同氏は「ひるがえって物流業界はデジタルの力を存分に振るえる場であり、これからお金も情報もたくさん入ってくるという考え方もできます。CLO設置をむしろチャンスと捉え、業界全体の活性化につなげることもできるんじゃないでしょうか」とコメントしました。

稲葉氏も赤澤氏に同調する形で「われわれもCLO設置をビジネスチャンスと捉えています。物流施設はあらゆる物流業務のスタート地点であり、拠点です。庫内作業や配送の効率化を共に提案することで、物流業界全体と協調しながらわれわれの事業領域を広げられると考えています」と前向きな姿勢を強調しました。

”協奏”の時代到来か

赤澤氏 物流業界では激しく競い合う”競争”だけではなく、共に創る”共創”がトレンドになりつつあります。ただ、私としては誰でもいいから人を巻き込むっていうのはちょっと違う気がしています。無駄を削ぎ落とすことが物流の使命だと考えているからです。

池田氏 その点は私も同感ですね。なのでCLOには、まさに指揮者(オーケストレーター)として専門家を選抜し、チームを作ってもらいたいと思います。私は「チームビルディング」こそがCLOに求められる重要な素養の一つだと考えます。

赤澤氏 なるほど。協力して奏でる、”協奏”の時代がやってくるというわけですね。稲葉さん、不動産デベロッパーとしての野村不動産の考えはどうですか。

稲葉氏 物流の担い手になることも含めて、われわれ不動産デベロッパーも自分たちにできることを冷静に見極めていきたいと考えています。

赤澤氏 CLO選任の要件、そして責任・責務についてはまだまだ語り尽くせないところがありますね。2024年12月5日に開催される「第四回物流議論」ではさまざまな方の意見を聞きつつ、さらに具体的なお話ができるのではないかと思います。池田さんにはイベントでCLOに求められる人物像や3PLの生き残り戦略について伺いたいと考えていますが、具体的な解答が得られると思っていていいですか。

池田氏 はい、より具体的なお話ができると思います。

赤澤氏 それは楽しみですね。みなさんも野村不動産とLOGISTICS TODAYが共催する「第四回物流議論」にぜひご期待いただきたいと思います。

第四回物流議論ではさらに詳細な議論が展開される予定だ。

※12月5日(木)・6日(金)「物流大再編時代」+「物流議論拡大版」合同開催決定。詳細は第四回物流議論の案内サイトより御覧ください。

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