夢物語ではなくなった、自動運転トラックによる物流革新
トラックドライバーの運転時間の削減や人手不足への対応に向けて、物流業界では多様な取り組みが求められています。特に、高速道路を利用した幹線輸送では、運転手も長時間拘束されるため、新たな働き方に沿った運び方への転換が必要です。
自動運転トラックによる長距離輸送も、そうした対応策の1つ。昨年政府は「物流革新に向けた政策パッケージ」において「物流DXの推進」として自動運転トラックを例示、推進に向けた関連予算も計上されるなど、一貫して推進すべき項目に位置付けられてきました。トラックドライバーを必要としない長距離輸送が実現すれば、運び手の不足という課題や物流効率化における大きな革新となることは間違いありません。
政府は、自動運転に関する目標を、2025年以降の「高速道路でのレベル4自動運転トラックの実現」、さらに2026年以降には「高速道路でのレベル4自動運転トラックの社会実装」を目指すとしており、SFマンガのイメージに過ぎなかった自動トラックが活躍する未来も、それほど遠いことではないのかもしれません。
自動運転におけるレベル4とは? その技術開発の現状とは?
さて、自動運転におけるレベル4とは何でしょう。自動運転では、すでに多くの新車にも搭載されている衝突被害軽減ブレーキや、前方車両に追随したり車列からはみ出さないなどの運転アシスト機能をレベル1、車列を保ちながら前方車両に追随する、あるいは高速道路上など特定の条件に絞った環境下で、ハンズオフで適切な巡航速度を保ち、遅い前方車両を自動で追い越すなどを可能とする自動運転機能をレベル2と定義しています。ドライバーによる監視が主体となるレベル1と2から、レベル3ではシステムによる監視へと移行し、高速道路上など一定の条件下で、自動パイロット機能などによりシステムがすべての運転作業を代行し、運転手はアイズオフ、つまり絶えず注視する必要もなくなります。ただしシステムに代わって運転手が必要な時にはすぐに運転を引き継げる必要があるのがレベル3です。
さらに進んだレベル4とは、特定条件下での完全自動運転であり、限定条件や区域で運転タスクをシステムが完全自動での代行を実現します。レベル4では、非常時においてもシステムが運転タスクを継続するため、運転手は対応する必要がないことが、レベル3との大きな違いです。レベル4は、アイズオフではなく、特定条件下ではブレインオフとされるドライバー完全不要の機能であり、トラック運転手の労働環境改善の見地からは、ハンドルを握っていなくても運転業務の負荷から解放されないレベル3ではなく、レベル4を実装することが必要となります。
レベル4でのさまざまな実証段階においてはドライバーが同乗する形で検証することとなりますが、もちろん最終的な目標はドライバーが同乗しない形での高速道路での完全自動運転の実装です。実現すれば、長距離輸送サービスのあり方自体も大きく変化することとなるはずです。
自動運転技術を後押しする制度変更、インフラの整備も加速
すでにレベル3の機能を持つ市販車も販売され、技術的にはレベル4実装へのステップアップはそれほど難しくないとされています。しかし、レベル4には運用面での規制や、車両システムでは解決できない事態の対応など、その社会実装に向けては様々な課題があります。昨年4月、道路交通法の改正によりレベル4の自動運転システムを装備している車の運行(特定自動運行)の許可制度が設けられ、遠隔監視を行う特定自動運行主任者設置が求められるなど、レベル4自動運転事業化への道筋が示された形ですが、引き続き安全性確保に向けた技術の進歩はもちろん、インフラ体制の整備、事業性の確立、社会の理解促進など、丁寧な検証作業も欠かせません。
政府は、ハード、ソフト、ルール面の検証に向けて、まずは自動運転支援道を整備し、自動運転車の安全かつ高速での運用のための実証事業を進めています。デジタル技術による社会インフラ成長へ向けた10か年計画を定めた「デジタルライフライン全国総合整備計画」の中でも、今年度から先行して成果を確認すべき項目、「アーリーハーベストプロジェクト」として、新東名高速道路・駿河湾沼津サービスエリア(SA)と浜松SA間の100キロ超区間の深夜時間帯を自動運転専用レーンに定めて実証の場とし、来年度以降は東北道などへも拡大することを想定しています。
道路整備では、特定支援区間で路車協調システムによる合流情報や落下物・工事規制情報の支援事業の検証が行われます。自動運転システム技術と情報通信技術の連携による「自動運転トラックの緊急停止時における遠隔監視・指示の実証」を行い、地震などの緊急事態において、遠隔監視システムから緊急停止指示および安全を遠隔から確認したうえでの再発車指示を送信して、運転手を介さずに自動運転トラックを停止・再発車する実証を行ったことも報告されています。交通事故などで自動運転の再開が難しい場合には、現場業務措置実施者が現場に駆け付けて遠隔監視者と対応を行うなどの検証など、自動運転で想定される様々な事態への対応方法や技術などの確認が進められている状況です。
自動運転トラックで、新たな日本の物流サービス開発を
さて、海外における自動運転トラック物流の現状はどうなっているのかも気になるところです。
米国では自動運転システム技術の開発を手がける多数のスタートアップ企業などが事業参入を目指し、日本の自動車メーカーや商社が出資するなど事業成長を後押ししています。ミシガン州では、官民共同プロジェクトでデトロイトとアナーバーの40キロ区間を結ぶ自動運転専用道路の建設が進んでおり、コネクテッドカー(ICT、デジタル通信技術を備えた車両)と自動運転トラックの専用道路とする予定です。また、自動化技術を先導する中国では2022年に中国浙江省でスマート高速道路を開通させており、すでにハイレベル自動運転に対応した道路ネットワークを実装しており、今後、世界で先行する技術が今後日本に輸入され、自動運転の発展に貢献するかもしれません。その一方で、日本特有の国土や道路事情に配慮し、「安全」こそを最重要とする取り組みが進むことも期待されます。
技術や制度をしっかりと検証し、社会実装へと丁寧に結びつける取り組みは、日本の物流サービスの優れた一面でもあります。とはいえ、物流危機に対しては、一刻も早い対応が求められるのも事実。政府も補助金など自動運転トラック実装に向けた支援を打ち出しており、政府、システム開発者や車両開発者、物流事業者はもちろん、保険事業からの参画や幹線と一般道をつなぐ拠点施設やサービスの提供者、事業化支援など、物流業界のあらゆる知見を集めることで、自動トラックによる幹線輸送を早期実現しながら、日本の誇る物流サービスにおける新たな武器として育てることもできるのではないでしょうか。