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明らかになる物流統括管理者(CLO)の役割

物流業界全般

物流革新に向けて改正され、5月に公布された新たな物流効率化法(新物効法)では、事業規模の大きな「特定事業者」に対して、より責任の重い取り組み義務が課されます。

特に、交付日から2年以内、2026年の4月頃に施行される予定の、特定荷主と特定連鎖化事業者に課される「物流管理統括者(CLO)」選任義務は、もっとも注目される事項の1つです。

このコラムでは、CLOとは何か、なぜ今CLO選任が求められているのかを解説します。

3省合同会議のとりまとめで、明らかになる「CLOとは何か」

政府は新物効法公布後、その施行に向けて国土交通、経済産業、農林水産の3省合同会議によって、改正法の中身の詳細を検討、9月にその取りまとめ案を公表しました。年間取扱貨物重量9万トン以上(上位3200社程度)となる発・着荷主と連鎖化事業者(フランチャイズチェーンの本部)は、特定事業者として、物流統括管理者・CLOの選任が義務付けられます。

さらに3省合同会議の取りまとめ案では、物流統括管理者・CLOとは何か、その担うべき業務についても示しています。それによると、「物流統括管理者は、トラックドライバーの荷役等時間の短縮及び積載率の向上を促進するため、貨物の運送に前後する調達、生産、保管、販売等の過程との調整を図りつつ、運送の効率化に向けた取組を進めていく必要があり、事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位にある者として、自社における物資の流通全体を統括管理することが求められる。また、その立場としては、基本として、重要な経営判断を行う役員等の経営幹部から選任されることが必要である」と示されています。

ここで重要なのは、「調達、生産、保管、販売等の過程との調整」を「事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位」から行い、物流効率化に取り組むことが示されたことであり、「重要な経営判断を行う役員等の経営幹部から選任されることが必要」との指針も示されたことです。

つまり、「物流部門の統括管理者」がCLOではないこと、物流の責任者など物流領域だけを統括するのではなく、調達から生産などの製造部門や営業部門まで、最適な物流体制を事業戦略として部門横断的に構築できる機能が求められていることがわかります。

これまでの、荷主企業の物流部門責任者の役割は、自社製品を計画通りに運ぶことに限定され、非合理的なリードタイムや、荷役現場の混雑状況、無理な配送計画などによる物流の破綻などを我が事として考えられなかったという反省が生かされているのではないでしょうか。政府が法改正によって進めようとしているのは、サプライチェーンにおいて力の強い荷主企業が、物流課題の解決を我が事として考えて実行する、意識変容と行動変容だと言えます。

これまでは運送業務を物流会社に委託してしまえば、あとはお任せという荷主企業も多かったはずです。極端な例では、運送コストを少しでも削るため、積載効率の下がるパレット利用ではなくバラ積み・下ろしを強要する、反対に積載率を改善しないまま非効率な配送回数ばかりを重ねるなど、自社都合に拘泥してサプライチェーン全体での利益を判断できない商慣習が、物流危機を招いた部分もあるのではないでしょうか。製造や営業部門の設定する配送計画や納期につじつまを合わせるだけの物流ではなく、サプライチェーンの広い領域における全体利益を見据えた物流体制を、企業を牽引する責任ある立場から構築するのがCLOの任務となります。例えば、積みつけ効率化のためにパッケージの仕様自体を変更するなど、製造領域からも物流を変えるような経営戦略の強力なリーダーシップも、CLOには必要となるはずです。

CLOの業務内容、果たすべき役割とは

3省合同会議のとりまとめでは、CLOの具体的な業務内容についても言及されています。

新物効法に基づく義務等に対して全社的な責任を持って対応すべき業務としては、「中長期計画の作成」、「トラックドライバーの負荷低減と輸送される物資のトラックへの過度の集中を是正するための事業運営方針の作成と事業管理体制の整備」が示されています。

また、トラックドライバーの運送・荷役などの効率化のために必要な業務として、「定期報告の作成」、「国からの報告徴収に対する当該報告の作成」、「事業運営上の重要な決定に参画する立場から、社内の関係部門(開発・調達・生産・物流・販売など)間の連携体制の構築」、「トラックドライバーの運送・荷役などの効率化のための設備投資」、「デジタル化、物流標準化に向けた事業計画の作成」、「トラックドライバーの運送・荷役などの効率化に関する職員の意識向上に向けた社内研修などの実施」、「リードタイムの確保に資する調達・生産・販売を含めた在庫管理計画の作成 」なども担うべき業務となります。

さらに、「物資の保管・輸送の最適化に向けた物流効率化のため、調達先及び納品先等の物流統括管理者や物流事業者等の関係者との連携・調整 」など、将来のフィジカルインターネット(*)実現による、社会全体でのより効率化した物流の構築に向けた窓口として、外部との連携・調整業務も重要な役割とされ、CLOには多様な領域での専門知識が必要なことがわかります。

国が想定するCLO像が明示されたことで、その設置に向けた各企業の取り組みも加速することが予想されますが、あまりに多種多様な職務での責任を担うことから、CLOにどのような人材を充てるべきなのかは事業戦略の大きな課題となるでしょう。あるいは、CLOの選任だけではなく、それをサポートするチーム編成など、組織再編も同時進行で進める改革で対応する企業も出てくるのではないでしょうか。

CLO選任義務化に込められた業界の進むべき道

政府が法改正で伝えようとしているのは、物流課題は経営者が主体的に責任を持って適切に解決しなさいというメッセージのようにも思えます。効率化だけではなく多重下請構造の是正においても下請法の適用範囲の見直しなどが想定され、業界構造の改革においても、企業としての責任ある対応がより厳しく求められているのではないでしょうか。不適切な企業経営の監督強化と同時に、真摯に改革に取り組む事業者を見える化し、評価する必要もありそうです。

CLOの果たすべき役割は、これまでの企業内の評価軸である自社利益のみならず、物流事業の全体利益にも重きを置くべきことから、こうした社外・外部からの評価軸を設けることも、CLO設置による物流革新の後押しになるはずです。政府は、CLO設置を含めた物流効率化取り組みの評価制度についてもその方向性を示しており、省エネ法でのランク評価による見える化を参考にした仕組み作りを進めるとしています。

業界全体の物流革新に積極的に取り組んだ事業者が報われ、さらにその取り組みを力強く推進するには、社会全体の見る目、評価する能力も問われることになるはずです。物流関係者だけではなく、消費者のひとりひとりが、物流改善の取り組みを正しく評価できる知見を養っていかなくてはならないのです。

(*)フィジカルインターネット:トラックなどの輸送手段や倉庫などの保管スペースなど、物流の限られたリソースを共同利用、シェアリングなど有効活用することで、持続可能な社会を実現するための物流モデル。インターネットでのパケット交換をモデルに、デジタル技術を基盤とした物流プロセスの効率化、協調領域の構築を推進するための取り組みである。

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