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物流法改正で求められるラストワンマイルの意識改革
~貨物軽自動車運送事業の規制的措置を再確認し、
事故ゼロ実現を最終目標に~

物流業界全般

貨物自動車運送事業法が改正され、軽トラック事業者(貨物軽自動車運送事業、軽貨物事業者)への規制的措置が、来年度から施行されます。

貨物軽自動車運送事業者に新たに、安全管理者の選任と講習の受講の義務付け、国土交通大臣への事故報告の義務付け、国土交通大臣による輸送の安全情報の公表、運転者への適性診断の受診の義務付け、業務記録及び事故記録の保存などが義務付けられます。

これまで個人事業主として自身が経営者と運転者を兼ねる軽トラック運送者では、点呼などの運行管理業務を厳密に実施していないケースもあるのではないでしょうか。国交省が昨年5月に公表した「貨物軽自動車運送事業の実態調査結果について」でも、点呼時のアルコール検査を実施していない軽貨物事業者が全体の25%、日常点検および12か月ごとの定期点検を実施できていない、実施していないを合わせて30%となることがわかりましたが、改正法令施行後はより厳格な対応が求められます。

新規で貨物軽自動車運送事業の開業を届け出る場合、安全管理者の選任が要件となり(既に貨物軽自動車運送を行っている事業者には、制度開始から2年間の猶予)、そのための管理者講習の受講義務も2025年4月から課されることが予定されています。法令に基づいた安全管理者を選任していない事業者は、事業ができなくなると言うことです。また、2年ごとの管理者定期講習受講という形で、安全管理者を更新していくなど、1回きりの講習受講だけでなく継続的な取り組みが求められます。

また、すでに一般の貨物トラック運送事業者に課されている国交大臣への事故報告義務や、安全確保命令や行政処分に関する情報が公表対象となること、運転手の適性診断義務付け、業務記録の保存義務化などの制度変更は、貨物軽運送事業を特例とせず、一般トラック運送事業と同じ枠組みの中で安全運転への意識を高めることを求めるものだと言えるでしょう。安全のために必要な法令等の知識を担保するとともに、事業者名の公表を伴う規制強化で事故抑止を図る狙いがあります。

とはいえ、超零細とも言える個人の貨物型運送事業者にとっては、新たな規制的措置が大きな負担となることは間違いありません。むしろ、なぜそうした規制強化に取り組まなければならないのか、その背景や現状を理解することが必要です。

事故増加の事実を直視し、安全に取り組む事業者としての意識変革を

今回の法改正の根拠について政府は、軽貨物の死亡・重傷事故件数が2019年の282件から、2021年には365件と19年度比で29.4%増加していることをあげています。軽貨物以外では同期間にかけて減少しており、軽貨物事業での安全対策の不備が際立ちます。

国土交通省「第1回 貨物軽自動車運送事業適正化協議会 議事次第」 の資料2「貨物軽自働車運送事業者が行うべき輸送の安全確保について」より

軽貨物運送では、EC(電子商取引)の需要拡大に伴い、個人事業主への業務委託も増えたことから新規参入が増加しており、事業用貨物自動車における軽貨物車両数も16年度の21万9400台から、21年には16年度比31.4%増の28万8226台に拡大しています。一般貨物運送事業の開業が許可制であるのに比べ、軽貨物事業は届出制であり、開業のハードルが低いことも事業参入を後押ししていると思われますが、その分安全意識が希薄になっているとも取れる状況で、安全意識、安全対策への取り組み不足が、事故増加の要因となっていることは明らかです。

国土交通省資料「事業用軽貨物自動車の事故の特徴」より

軽貨物はそれ以外の事業貨物車と比較して「人との事故」による死亡・重傷事故割合が多いことが報告されており、軽貨物車保有台数1万台当たりの法令別違反件数では安全不確認が最も多く、優先通行妨害、歩行者妨害や一時不停止などでの法令違反の多さには、現行法の厳守さえできていない事業者への「安全教育」の実施は不可欠と言わざるを得ません。特に消費・生活の現場に直結した運送業務が軽貨物運送の領域だけに、より高い安全意識が求められるのは当然です。新たに義務化される講習受講においては「貨物講習eラーニング通達」を制定し、ICT技術を活用したより柔軟な受講環境作りも進められます。

国交省は「貨物軽自動車運送事業適正化協議会」を設けて、貨物軽自動車運送事業者側には、法令やドライバー教育に基づいた安全運転の徹底などを再確認しており、参加運送事業者の安全対策の取り組み事例を公表しています。軽貨物ドライバーの事故の多さの原因が、荷主や元請けによる違反原因行為によるものとなれば、世論もより厳しい目で具体的な対策を求めることとなります。前述の実態調査では、荷主からの「違反原因行為」が「ある」とする回答が54%におよび、法で定めた拘束時間では不可能な量の配送依頼が多い実情が報告されていることからも、今後、消費者も含めて社会全体であるべきラストワンマイルのあり方を考えなくてはならないでしょう。

国土交通省「第2回 貨物軽自動車運送事業適正化協議会 議事次第」 の資料3「貨物軽自動車運送事業の実態調査結果について」より

消費者にとって一番身近な宅配分野での混乱は、業界全体で担う輸送量の割合に関係なく、物流危機を強く印象付ける恐れがあります。さらには再配達率削減への取り組み要請など消費者を巻き込んだ物流効率化を掲げるのであれば、事故ゼロを目指す運送事業者としての高いプロ意識が必要です。物流維持のために交通安全がないがしろにされているというイメージが広がれば、それこそが物流の崩壊を招きかねません。それにはもちろん、軽貨物運送事業者自身だけではなく、荷主、元請け、マッチング仲介業者にとっても大きな責任を背負っていることを今一度認識する必要があるのではないでしょうか。

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