「再配達削減」は、誰もが取り組める物流効率化対策である
物流関連2法の改正により物流効率化への取り組みは、物流に携わるすべての事業者の義務となり、現在その詳細な要件が検討されています。物流の停滞、機能不全は、ただ運送するものの責任ではなく、サプライチェーン(SC)の上流から下流まで、すべての工程で取り組んでこそ意味があるのですから、発荷主、着荷主、運送業、倉庫業など、物流の全域において、各事業者がわがことととして取り組むのは当然のことだと言えます。
そして、改めて意識しなければならないのは、私たち消費者もSCの最下流において、物流効率化への役割を担っていることです。法令による罰則こそありませんが、生活を支える物流を維持するために消費者ひとりひとりが物流の改善に取り組まなくては、これまで通りの物流サービスをこれまで通りの価格で受けることも不可能となり、生活スタイルにさえ大きな悪影響を与えかねません。
目標までの道は険しいからこそ、さらに取り組みの強化を
消費者が意識して取り組まなければいけない効率化、物流改善の取り組みといえば、やはり「再配達率の削減」ということになるでしょう。
政府は、2023年に取りまとめた「物流革新に向けた政策パッケージ」で、2024年度の再配達率を半減することを目標に掲げました。国土交通省による宅配便の再配達率に関するサンプル調査によると2023年度の再配達率は11.1%から11.4%で推移していたことから、これを半減するには6%の再配達率を達成していかなくてはなりません。
では、現状はどうでしょう。同じく国交省のサンプル調査では、2024年4月の調査での再配達率は10.4%。前回調査時より1%の改善とはいえ、目標とする数字にはまだまだ及びません。国交省の今年度の調査は10月度の調査を残すだけとなり、物流改善に向けて目標設定も、文字通り「絵に描いた餅」となりそうな雲行きです。国交省による調査「令和4年度 宅配便・メール便取扱実績について」によると、宅配便の取り扱い個数は、2022年度にははじめて50億個を突破し、前年度比1.1%の増加を記録するなど、配送事業における業務量は増加するばかり、再配達の削減が配送作業者の労働負荷を削減するのはもちろん、CO2排出量の削減などでも取り組みをより一層強化することが必要であり、国、事業者とともに、荷物を受け取る側も、さらに高いレベルで再配達がなくなるような取り組みが求められています。
政府としても働きかけを強めています。2024年4月には「再配達削減月間」として国土交通省、経済産業省など関係省庁とEC(電子商取引)事業者、宅配事業者が連携して広報活動を推進、人気キャラクター「ちびまる子ちゃん」を起用したテレビCMを目にした方も多いのではないでしょうか。再配達の削減に向けて、配達状況の通知アプリ活用や、注文の工夫などで配送をまとめる取り組み、急がない配送の利用、コンビニ受け取りや、宅配ボックス、宅配ロッカー、置き配の積極利用など、それぞれにできることを取り入れて協力することが求められています。
国交省では「再配達削減補助事業」として、EC事業者、物流事業者を対象に、荷物の受け取り方法を、消費者自らが「選択」「確認」できる仕組みの構築、再配達削減に協力的な消費者にはポイントなどインセンティブを付与する仕組み作りに参画する事業者を募集しました。消費者が日時や荷物の受け取り方法を「コンビニ」「営業所受取」「置き配」など選択できる仕組みを構築する事業者には最大1億5000万円の補助金を用意。また、ネット通販の利用者が置き配や宅配ボックスを活用し、再配達なく1回で荷物を受け取った際にポイントを付与する仕組みの導入では、サービスを提供する事業者のポイント付与にかかる費用を国が一部負担、1配送につき最大5円を補助します。ポイント付与事業に関しては1次公募で受付終了しましたが、システム改修やアプリ活用では2次公募を実施するなど、民間事業者の積極的な関与を促しており、取り組みの緊急度がうかがわれます。*
*参考資料引用元:
国土交通省プレスリリース(令和6年5月31日付)「再配達率削減緊急対策事業」(補助事業)の募集を開始します。」
国土交通省プレスリリース(令和6年7月29日付)「再配達率削減緊急対策事業」(補助事業)の二次募集を開始します」
国、事業者、そして私たちひとりひとりが取り組みを
事業者側でもすでにこうした施策への対応が進み、新たな仕組み作りも次々と提案されています。佐川急便では、会員向けサービスで、配送日時の事前連絡、配達日・受取場所の変更が可能なサービスを提供していましたが、2024年9月から置き配を選択できるようになります。日本郵便は早くから置き配の仕組みを提供し、ヤマト運輸でも2024年6月から、会員向けサービスの配送法に置き配を組み込むなど、宅配大手3社では再配達負荷のかからない新たな受け取り方の普及を目指します。
ファッションECのZOZOが展開するZOZOTOWNは、受け取り方法指定の初期設定を置き配にすることで、置き配の選択が2倍以上になったとしており、2024年8月から「ゆっくり配送」を導入して配送効率化を目指します。また、メルカリでも配送方法の初期設定は置き配にするとともに、置き配限定による一律配送料金のサービスを開始するなど、ラストワンマイル配送に大きな影響力を持つEC事業者からの新たな取り組みも拡大しています。
宅配ボックスなどでの新しい提案や、不動産事業者、不動産関連ソリューションからの対応も拡大しています。指定した配送者がマンションのオートロックを解除して玄関前に配送できるシステムなど、ユーザーの利便性向上や再配達率削減に大きく貢献する取り組みであり、配送事業者やEC事業者に加えてマンション供給事業者も連携した、新たな取り組みの拡大も期待されます。また、自治体ごとに宅配バッグを配布するなどの取り組みも行われており、より多くの消費者が積極的に取り組むことで、再配達率削減の目標達成を目指していかなければなりません。
このまま10件に1件の割合での再配達率で推移することになれば、消費者のコスト負担増につながり、「再配達料金」の設定も、真剣に議論されることになりかねません。コスト増だけならまだ良いですが、現状の物流が維持できなくなれば、生活スタイルも変えざるを得ない、そんな消費者も少なくないはずです。さまざまな仕組みやインフラを、消費者が積極的に使うこと、再配達削減を意識した活動をすることこそが、課題解決のカギとなっているのです。