野村不動産が手掛けるLandport、
利用者ニーズに幅広く応える設計とは。
荷主・物流事業者ごとに、物流施設に求めるものは違います。あらゆるニーズを汲み取り、全ての需要を満たす施設を設計するのが理想ですが、設備の導入にはコストがかかるのが常であり、かかったコストは賃料といった形で借主に跳ね返っていきます。
そのため、クライアントのニーズを的確に拾いつつ、最適な施設環境をつくることが重要です。そして野村不動産でそのような絶妙な舵取りを任されているのが建築部です。
今回はLOGISTICS TODAY編集長の赤澤裕介氏が、野村不動産の建築部でLandportの設計・品質管理を行う北山哲氏と 山田奈津子氏を取材しました。
<右>野村不動産株式会社 都市開発第二事業本部 建築部 推進一課長 山田奈津子氏。
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(インタビュアー:赤澤裕介LOGISTICS TODAY 編集長)
野村不動産建築部、要の二人
赤澤裕介氏(LOGISTICS TODAY編集長)
今回は野村不動産が全国に展開する物流施設「Landport」について、プロジェクトに携わる建築部の北山さんと山田さんのお二人からお話を伺います。まずは自己紹介をお願いできますか。
北山哲氏(野村不動産株式会社 都市開発第二事業本部 建築部長)
こんにちは。私は建築関連部署を跨ぎながら20年以上勤務しており、現在は物流施設の設計・管理に携わっています。休日はゴルフを楽しむことが多いです。仕事関係の方々とラウンドすることも多いですが、良いリフレッシュになっています。
赤澤氏
20年以上のご経験があるとは、非常に頼もしいですね。いくつになっても、スポーツは良いリフレッシュになりますし、仕事にも良い影響がありそうです。山田さんはいかがでしょうか。どのように休日を過ごされているのですか。
山田奈津子氏(野村不動産株式会社 都市開発第二事業本部 建築部 推進一課長)
私は休日は家族との時間を大切にしています。特に子どもと一緒にいろんな場所へ遊びに行くのが楽しみです。動物園や博物館、公園など、週末は家族サービスに努めています。ただ、職業柄、街中にある建築物や倉庫には自然と目がいってしまいます。
赤澤氏
なるほど、お二人ともそれぞれの方法でリフレッシュしながら、仕事にも全力で取り組んでいるのですね。では、次にお二人のお仕事、野村不動産が手掛けるLandportと建築部との関わりなどについてお聞きできればと思います。
物流施設を設計・建設する際に意識する3つのポイントとは?
それでは、野村不動産が考える「物流施設を設計する際のポイント」3点を見ていきましょう。
物流施設の最も基本的な役割は、荷物を効率的かつ安全に保管することです。これを実現するために、床の耐荷重や梁下有効高など、荷物の保管を最優先に考えた基本的な要件を満たすことが求められます。例えば、大型で重い荷物を扱う場合、床の耐荷重を高める必要があります。また、高い棚を使用する場合には、梁下の有効高を十分に確保することが重要です。
さらに、荷物の種類や物流施設の場所、規模によっても必要な条件が異なるため、利用者のニーズに柔軟に対応するところがポイントでもあります。Landportは全国的に展開されていますが、各施設ごとに異なるデザイン・構造を持っています。全社で共有している基本マニュアルはありますが、設計・デザインはその担当者の意思をできるだけ尊重しているのです。そのため、どの物流施設にも設計者・担当者の個性が表現されているところが特徴になります。
物流施設のプロジェクトは、土地の取得から建築までの一連の流れをスムーズに進めるために、各部門の緊密な協力が必要不可欠です。野村不動産では、まず開発部が物流施設の建設に適切な土地を選定・取得します。その後、物流事業部がその土地の特性に合った施設計画を立て、最終的に建築部が具体的な計画・新築工事での品質確保を担当します。
各部署がそれぞれ別の作業をしていますが、部署間のコミュニケーションは重要です。特に建築部は利用者のニーズを具体化する役割を担っており、各部署の考えをヒアリングする必要があります。
物流施設は利用者が満足する形で、物資を保管できる施設である必要があります。そのため、具体的な設計案を作成する前に利用者のニーズをヒアリングしたり、想像したりすることに多くの時間を割きます。必要以上に過大なスペックを持つ施設を高額で提供するのは、適切なビジネスモデルではありません。
野村不動産は各テナントにとって最適となる、”必要十分な物流施設”を提供できるよう、カスタマイズ性の高い建築に努めています。時には、計画途中で「ニーズに合わない」と考え、計画を中止することもあります。しかし、クライアントに喜ばれない物流施設を建築することは我々の本意ではないため、このような決断を柔軟に下せることも野村不動産の強みではないかと考えています。
建築費高騰が続くなかでの、苦労と試行錯誤の日々
現在、建築費が高騰しており、物流施設の開発においてもその影響は無視できないものになっています。このような状況下で、野村不動産はどのような工夫をしているのでしょうか。
野村不動産は品質や使い勝手を損なわずに仕様を最適化するための試行錯誤を日々行っています。「この機能はここまでで十分だ」という取捨選択を行い、クライアントにとってのオーバースペックを避けてコストダウンを図っています。それを実現するために、クライアントからのフィードバックの機会を非常に大切にしています。
野村不動産では、テナントの要望や改善点を反映させるために、定期的にフィードバック会議を開催しており、この会議で得られた情報をもとに標準仕様書を随時更新。物流施設の建築分野で進化し続ける仕組みを整えています。
もちろん、今後の物流施設の設計へ活かすだけでなく、いただいたフィードバックに基づく完成後のサポート・アフターケアも欠かせません。構造・設備などの品質・技術的なサポートに特化した部署の「技術管理部」とも連携してテナントの入居工事やアフターケアを行うことで、高品質な物流施設の運用をサポートしています。特に冷凍冷蔵設備のような特殊な施設の場合、専門的な知識と技術が求められるため、外部の専門部隊と協力しながら対応しています。
従業員の快適さも意識したLandportの設計
野村不動産が手掛けるLandportは大型の物流施設として多くのテナントから高評価を得ていますが、その施設内で働く従業員の利便性も常にブラッシュアップしています。なぜなら、物流施設の運営には物資が保管できるだけでは不十分で、従業員の快適さも重要だからです。例えば、従業員が快適に働ける環境づくりの一環として、各施設にカフェテリアや無人コンビニ、パウダールームを設けています。
これらの設備は物件ごとに異なるデザインを採用しており、各担当者が個性を発揮できるようにしています。建築部では細部のデザインに強いこだわりを持つ社員も多く、彼らの思いを施設デザインに強く反映しているのです。
野村不動産が考える、これからの物流施設の役割とは?
物流施設の役割は、ますます重要になってきています。特により早く大量の物資を届けるため、都市部に近い場所に拠点を構える必要が出てきています。今後、物流施設は従来のような「倉庫」ではなく、地域社会の一部としての役割を果たす必要があるでしょう。
野村不動産では「カテゴリーマルチ」のアプローチを取ることで、多様なニーズに対応しています。カテゴリーマルチとはさまざまな用途に応じて物流施設の設計を変更することで、同じLandportでもEC(電子商取引)向けの施設と重量系の施設では計画・設計の段階からアプローチの仕方が異なります。
以上を実現するためには、より幅広いニーズに対応する力とニーズを理解する力の両方が求められます。特にニーズを見つけるには、社会のトレンド・課題に常にアンテナを立てる必要があります。例えばコロナが流行した際には、カウンター席にパーテーションを設けるなど、迅速な感染症対策を行いました。常に変化する社会のニーズに敏感に反応し、地域に馴染んだ快適な物流施設を建設することが今後のトレンドになるでしょう。
マルチテナント型物件、BTS型物件それぞれの良さを併せ持つ「第三の選択肢」となりうる物流施設の在り方。
利用するお客様の業種(=カテゴリー)を特定することで
「オペレーション効率を最大化する物流施設」・「自動化を見据えた施設設計」を実現。
野村不動産が目指すのは、地域社会の一部としての物流施設
赤澤氏
ECの拡大はコロナ語も続いており、物流施設の重要性は今後も高まり続けると思います。野村不動産が手掛ける物流施設は、”地域社会の一部としての役割”を果たす事ができると思いますか。
北山氏
従来までの物流施設は”嫌悪施設”として捉えられることも少なくありませんでした。しかし、今後はより都市部に近い場所にも建築されていくため、生活者の方にとっても意味のある建築物である必要があると考えています。
山田氏
物流施設の建築による「雇用の増加」「人口の変動」など、テナント・従業員だけでなく、生活者にとってもメリットのある施設を野村不動産としても設計・建築していきたいと考えています。
<右>野村不動産株式会社 都市開発第二事業本部 建築部 推進一課長 山田奈津子氏。