「テクラム」が目指すのは物流業界協働化の仲介役【前編】
近年、物流課題解決のキーワードとして「協働化」という言葉をよく耳にするようになりました。しかし、物流事業者の多くが課題を認識しつつ、具体的な策を講じることができずにいる現実があります。その理由として、本来ライバルである企業同士をつなぐ仲介役の不在、協働の機会やきっかけの不足などが挙げられます。
そんな現状を打破するため、野村不動産は企業間共創プログラム「テクラム」を始動。本格始動から数年が経ち、参加企業も増えた今、プログラムは次の段階に移行しようとしています。前編(本記事)では物流業界におけるテクラムの役割、後編ではテクラムが提供するマッチングサービスについて、LOGISTICS TODAYの赤澤裕介氏が、野村不動産でテクラムを牽引してきた藤﨑潤氏と大下智久氏を取材しました。
<右>野村不動産株式会社 都市開発第二事業本部 物流事業部 事業企画課 課長代理 大下智久氏
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(インタビュアー: 赤澤裕介LOGISTICS TODAY 編集長)
参加企業100社を目前に控えたテクラム
赤澤裕介氏(LOGISTICS TODAY編集長)
今回は野村不動産が主導する企業間共創プログラム「テクラム」(https://www.nomura-landport.com/techrum/)に携わる大下さんと藤﨑さんにお話を伺います。まずは自己紹介代わりにお二人の経歴をお聞かせいただけますか。
大下智久氏(野村不動産株式会社 都市開発第二事業本部 物流事業部 事業企画課 課長代理)
私はもともと別の物流会社でWMS(倉庫管理システム)の開発に携わっていました。DX(デジタル化)推進担当としていろいろな取り組みを実施してはいたのですが、思うように結果が出せず、悩んでいました。そんなとき、ユーザーとしてテクラムのすごさを実感し、野村不動産への転職を決めたんです。
大下氏
前職のときに私が感じていたのはDX化に伴うコストと、実際の効果との不釣り合いでした。テクラムは企業が抱えるそういった課題を早くから認知していたので、ここに飛び込めば自分が本当にやりたかったことができるのかな、と思えたんです。
赤澤氏
ありがとうございます。藤﨑さんはどういった経緯でテクラムに関わることになったのですか。
藤﨑潤氏(野村不動産株式会社 都市開発第二事業本部 物流事業部 副部長 兼 事業企画課長)
私もかつては物流事業者で働いていました。仕事を進めていくなかで、業界について考える必要が出てきて、自分にできることを広げていった結果、テクラムにたどり着いたといった経緯です。
赤澤氏
テクラムは直近ではどのような規模になっていますか。
藤﨑氏
現在(2024年7月)、テクラムに参加している企業は90社以上。100社目前といったところです。直近3カ月で10社ほどの登録をいただいていて、登録のペースは早まってきています。
具体的な業務をイメージしやすくすることが協働化のキー
そもそもテクラムとは物流機器のレンタル・リースサービスです。野村不動産が旗振り役となり、荷主・物流事業者が抱える課題を解決するために本来なら競合にあたる企業同士を集めました。「テクラム」という名前には「多くのテクノロジーがスクラムを組む」という意味があります。
通常、マテハン機器のレンタル、ロボットの導入には複数のメーカーと交渉する必要があり、やりとりが煩雑になったり、十分な検証ができないまま導入に踏み切るしかない事態に陥ったりします。テクラムなら窓口を一本化できる上、マテハン機器を試験的に導入したり、並行して導入・検討することが可能です。
2024年問題を受け、物流業界には自動化・省人化の動きが広まりつつあります。藤﨑氏も「この波は確実に来ます。そのときにはあらゆることをシェアすること、つまり協働化がカギになるはずです」と話します。
話題はテクラムに参加する企業同士の横のつながりに発展していきました。実際、テクラムの強みは異なる企業のサービス、システムを組み合わせられる点にあり、企業間の協働は一つのキーワードになっています。
赤澤氏の「企業間のコラボレーション、協働化は進んでいますか」との問いに対し、大下氏は企業同士が手を取り合うことの難しさについて話しました。
現在、野村不動産はLandport習志野に「習志野 Techrum Hub」という実験場をつくり、参加企業に開放しています。こちらは出展ブースとしても機能し、月に2回は荷主・物流事業者に向けた説明会を実施。機器やソフトが稼働している様子を実際にご覧いただきます。
実際に庫内の動きをリアルタイムに監視、得られたデータをもとに改善策を導き出す仕組みや、センサーを用いて倉庫の「見える化」を進める仕組みも実用レベルで稼働しています。
しかし、このように企業同士が同じ空間を利用したからといって、自然とコラボレーションが生まれるわけではありません。「実際に荷物や業務を共有する、案件ベースでないと協働化を進めづらいのではないかと感じています」(大下氏)
案件につながりやすい環境をつくるため、野村不動産は習志野Techrum Hubのリニューアルを計画しています。今までは脈絡なく配置してきたブースを整理し、物流のフローごとにまとめます。テーマや具体性を付与することで、手を取り合えるシチュエーションを想像しやすくし、やり取りの活性化をはかります。
テクラムを通すからこそ、実現できることもある
赤澤氏
協働化に向けた課題は、参加企業にいかに具体的な協働のイメージを持たせるかにありそうですね。
藤﨑氏
そうですね。それに我々が見せ方を工夫すれば、荷主・物流事業者さんも「自分の現場だったらこう使う」っていうのが想像しやすくなると思います。
赤澤氏
しかし、いざ課題に取り組むとなると現場レベルで手を組めない、ということもありそうですね。そのあたりは野村不動産の采配が試されるとお考えですか。
大下氏
企業同士のことに関しては、あまり気をつかいすぎない方がいいと考えています。参加企業もきっかけさえあれば情報交換をしたいし、協働したい気持ちもあると思います。野村不動産の役割は場と機会の提供に限ると思っているので、テクラムは緩衝材として使ってもらえればいいですね。
藤﨑氏
テクラムを通すからこそ、できることもあると思いますよ。
大下氏は「テクラムを認知してもらう段階は終わりました」と話します。その上で、「これからは荷主・物流事業者に向けていかに具体的な活用例を示せるかのフェーズになりました」と語ってくれました。後編ではテクラムが提供するマッチングサービスの特徴を深掘りしていきます。