労働力不足への対応-多様な人材活用(外国人ドライバー、
地方人材)の環境整備とは
物流現場の労働力不足に挑む
多様な人材活用と環境整備の最前線
物流業界では、2024年4月からの働き方改革関連法により、トラックドライバーの時間外労働が年間960時間に制限されたことで、慢性的な人手不足が一層深刻化しています。国土交通省の試算によると、2024年時点で3万5000人、2030年には52万人のドライバーが不足する見込みで、これは輸送能力の30%を超える規模。特に農水産物の輸送力不足が懸念されています。
また、多くの運送事業者が人手不足となっており、全日本トラック協会の調査では、特に長距離輸送や夜間業務における若年層の担い手不足が著しい状況です。従来の採用活動だけでは対応が難しくなっており、外国人労働者、地方在住者、女性といった多様な人材を物流現場で活用する動きが本格化しています。これは単なる人手の補充にとどまらず、物流業界の構造転換を促す取り組みとして注目されています。
急速に進む「特定技能外国人ドライバー」活用
深刻な労働力不足を補う手段として、物流業界では外国人材の活用が急速に進んでいます。2024年3月には、自動車運送業が「特定技能1号」の対象分野に正式追加され、最大で2万4500人の外国人労働者が制度上受け入れ可能となりました。
これにより、トラックドライバーとして日本で働くことを希望する外国人は、日本語能力試験N4相当の言語力に加えて、運転技能評価試験の合格、在留資格の取得、国内運転免許への切り替えなどを経て現場に配置されることになります。
2024年4月には特定技能外国人ドライバー第一号が採用され、日本各地で外国人ドライバーの採用が始まっています。大手物流企業は、フィリピンやベトナムなどからの受け入れ体制を整備し、日本語教育、生活支援、OJT研修などを組み合わせた支援体制の構築を進めています。
特に大手3PL事業者では、今後10年間でドライバーの3割を外国人材で構成するとの報道もあり、受け入れ拡大に向けた準備を本格化させています。一方で、交通法規の遵守や事故リスク、文化的な適応の課題もあり、企業側の責任と準備が求められています。
「女性人材」活用のカギは働きやすい労働環境づくり
物流業界における女性労働力の活用は、労働力不足への対応策として近年注目を集めています。国土交通省が2014年に開始した「トラガール促進プロジェクト」では、女性ドライバーの増加を目指し、職場環境整備や啓発活動が行われてきました。
全日本トラック協会の調査では、2023年時点でトラックドライバー全体に占める女性の割合は2-3%にとどまっていますが、中型・小型トラックや地場配送において、女性の登用が少しずつ進んでいます。
企業も女性が安心して働けるよう、専用の更衣室、休憩室、トイレの整備、育児と両立できる時短勤務制度や日勤専用シフトの導入など、柔軟な対応を進めています。
さらに、倉庫作業ではパワーアシストスーツや自動昇降リフトなどの導入により、体力差の課題を克服し、女性や高齢者でも無理なく作業できる環境づくりが進んでいます。
実際に、ある大手食品物流事業者では2017年時点で女性比率が2.4%でしたが、2025年3月には8.1%へと3倍超に拡大し、女性人材の活用が進展しています。
統計局のデータによると、男性労働者は2014年の3776万人から2019年に3841万人へと増加したのをピークに、2024年には3800万人に減少しました。一方で、女性労働者は2014年の2832万人から2024年には3157万人へと増加しています。総労働人口も2014年の6609万人から2024年には6957万人となっており、女性の増加が全体の支えとなっていることがうかがえます。
地方の人材を活用し、全国の物流を維持する
都市部のドライバー不足に対する有力な解決策として、地方人材の活用が挙げられます。地方には、定年後の再就職を希望する高齢ドライバーや、U・Iターンによって地元へ戻った若年層、中小運送業者による潜在的な人材が一定数存在します。
都市部に比べて通勤距離が短く、生活コストも低いため、地方は安定的な雇用環境が整いやすいといえます。
さらに、地方と都市をつなぐ新たな輸送モデルとして、リレー輸送や中継拠点型の運行が導入されつつあります。例えば、長距離輸送の中間地点に休憩や荷台交換、運転交代のための中継所を設けることで、1人のドライバーが長距離を通して走行する負担を軽減できます。
このように、地元エリアにとどまりながら幹線輸送に貢献できる体制が整い始めており、長時間労働の回避と生活の安定が両立できます。
今後は、地方自治体と運送事業者が連携し、教育訓練や地域インフラ整備を進めることで、地域の活性化と輸送の持続を実現することが重要です。
物流業界は「選ばれる業界」へ、企業は「選ばれる企業」へ
多様な人材が安心して物流現場で働き続けるためには、企業の職場環境整備と国の支援策が不可欠です。とくに外国人材や女性、地方在住者などの新しい担い手を活用するためには、労働条件の見直し、教育・研修制度、安全衛生環境の改善が求められています。
大手物流企業では、ダイバーシティ推進室や人材戦略室を設置し、多言語対応の業務アプリや生活支援マニュアル、女性向け福利厚生制度の拡充など、実践的な取り組みが進んでいます。
また、女性専用のトイレや更衣室、仮眠施設の整備といったインフラ改修も行われており、今後もさらなる改善が期待されます。
一方で、労働環境に見合った報酬が十分とはいえず、待遇改善は企業努力に委ねられる傾向があります。トラックドライバーの平均年収は全産業平均を下回っており、定着や新規人材の確保にとって課題となっています。
また、特定技能外国人については、出入国管理法との整合性の確保が急がれています。たとえば、現在は最長5年間しか在留できず、介護や建設とは異なり、現時点で「特定技能2号」への移行が認められていません。長期的に戦力化するには、制度の改正が必要です。
中小企業にとっては、こうした制度や設備対応に必要な投資が大きな負担であり、国や自治体の支援強化が不可欠です。
今後は、運賃の適正化と荷主への法的義務付け、特定技能2号への制度拡張、DXやロボティクスとの連携による業務効率化が展望されます。
物流業界は働きたくなる産業への転換を
国内の労働力人口が減少する中でも、女性や特定技能外国人など新たな担い手によって、一定の労働力確保は可能です。しかし、こうした人材は物流業界だけでなく、他産業でも強く求められている存在です。
このような“人材の取り合い”において選ばれるためには、物流業界そのものが「働きたい」と思われる魅力ある業界に進化する必要があります。そして、企業もまた他社より「選ばれる職場」となるための努力が求められます。
業界全体としては、前向きで活気ある雰囲気づくりが重要です。企業ごとには、労働負荷の軽減、働きやすい職場環境づくり、十分な報酬が得られる給与制度の整備など、総合的な対応が不可欠です。
物流業界が今後も社会を支えるインフラとして存続していくために、人材から選ばれる産業への転換を着実に進めていくことが求められています。