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航空燃料の脱炭素化を支える「SAF」普及への展望

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持続可能な航空燃料(SAF: Sustainable Aviation Fuel)というキーワードを目にする機会が多くなっていませんか? 前月掲載のコラムでは、主に陸上の運送における新たな燃料について紹介しましたが、SAFは航空分野の温室効果ガス排出削減を実現する重要な解決策として注目を集めています。世界的に脱炭素化が急務となる中で、SAFの可能性と課題、国内のサプライチェーン構築の動き、そして社会全体の環境問題への影響について紹介します。

持続可能な航空燃料=SAFとは何か

SAFとは、再生可能な資源を原料に製造され、従来のジェット燃料の代替として使用できる航空燃料の総称です。既存の航空機や給油設備でそのまま使えるため、技術的な導入障壁が比較的低く、航空業界にとって現実的な脱炭素化手段として位置づけられています。

(出所:国土交通省)

従来の化石燃料と比較し、製造から燃焼までのライフサイクル全体でCO2排出を大幅に削減できることが特徴です。国際航空分野では、航空業界の国際機関であるICAO(国際民間航空機関)において

2050年までの カーボンニュートラルの目標が採択されています。SAF利用による具体的な炭素削減目標が設定され、ICAOのカーボンオフセット・削減制度(CORSIA)でも、ライフサイクル排出削減基準を満たすSAFを利用することで、排出削減としてオフセットに参入可能と認定しています。さらに欧州連合(EU)はSAF混合比率を段階的に引き上げる義務化を進めるなど、世界的な規制強化が進む中で需要は今後急増が見込まれています。日本でも、国内航空燃料需要のSAF代替を促すため、石油元売り各社に対して航空燃料の販売量の一定割合をSAFに置き換える供給義務化を検討するなど、制度設計が進められています。

(出所:経済産業省)

SAFが注目される背景

航空業界は輸送分野の中でも脱炭素化が難しい分野とされます。電動化は小型・短距離路線に限定され、水素燃料機も実用化には時間がかかります。こうした制約の中で、今すぐに既存の航空機でCO2削減を進められる手段として、SAFは現実解として期待されています。

また、消費者や投資家からのサステナビリティへの要求も強まっています。企業の「ネットゼロ宣言」が相次ぐ中、航空会社は長期的なSAF調達契約を締結し、排出削減目標達成に向けた取り組みを本格化させています。こうした市場の動きが、SAF需要の着実な成長を後押ししています。

日本政府は「2030年までに国内航空燃料需要の10%をSAFで代替する」という目標を掲げており、国産原料確保の課題や官民連携、設備投資額に必要な金額を1兆円規模とする参考値も示しました。このような数値目標が、産業界の投資判断を後押ししています。

(出所:経済産業省)

欧米では大規模なプラント稼働も増加、アジア太平洋の市場でも需要の拡大に対して供給能力の増強が急務となっています。今後各国の国策として需要が高まることも予想され、グローバル規模での拡大が期待されるだけに、まずは国内SAFの供給体制を構築することが必要です。

SAF普及の課題とサプライチェーン構築の動き

しかし、SAF普及には大きな課題も残されています。最大の壁はコストであり、現在の価格は従来燃料の2倍以上とされています。また、生産設備や原料調達網もまだ限られており、大規模供給には新たな投資が不可欠です。SAFは廃食油などの油脂原料を水素添加するHEFA法による製造法のほか、アルコールやバイオガス、ゴミなど多様な原料から製造する技術開発も進められています。今後世界的な競争による原材料の枯渇に備え、より多様な原料供給ルート構築も同時進行しなくてはなりません。

(出所:経済産業省)

こうした中でも、国内ではサプライチェーンの基盤づくりが着実に進められています。たとえば、SAFの主原料の一つである廃食油を巡っては、家庭や飲食店からの回収を自治体や民間事業者が連携して進めています。東京都や大阪市などの自治体では、家庭からの使用済み油の分別回収を推進しており、回収量を拡大させる取り組みが進んでいます。こうした身近なレベルでの資源循環の仕組みが、将来的な国産SAF供給の土台を支えています。

さらに、国内初の量産プロジェクトも始動しました。大手エネルギー事業やプラント開発エンジニアリング、廃食油回収事業が協力し、廃食油由来のSAF製造プラントも完成、国内での廃食油の収集からSAFの製造、輸送・供給に至るまでのサプライチェーン構築を本格化しています。全日本空輸(ANA)や日本航空(JAL)などはSAF調達を長期契約で確保する方針を打ち出し、すでに国産SAFを使用した運行もスタートしています。

政府も製造設備投資への補助金や研究開発支援を拡充し、2030年目標達成に向けた官民連携を強めています。輸入燃料への依存を減らしつつ、国内生産とアジア地域での供給網構築を並行して進める戦略が描かれています。

・SAF推進がもたらす環境への影響と今後の方向性

SAFの普及は、航空業界の排出削減だけでなく、廃棄物リサイクルや地域循環型経済の形成にも貢献します。廃食油の回収・再利用は、食品廃棄物の有効活用や排出抑制といった副次的な環境価値も生み出します。

筆者がよく利用する外食チェーン店でも、店舗の廃食油をSAFへと利用する活動に参画していることが店内に掲示されています。日常から、環境問題を考えたり、企業の環境取り組みを評価する機会が増えることは、企業の積極的な活動を後押しすることにもつながるはずです。

一方で、今後の課題として、コスト削減に向けた技術革新や原料確保の多様化が不可欠です。また、国際的な認証や規制の標準化を進め、航空会社が予測可能性を持って投資できる環境を整える必要があります。

SAFは単独の解決策ではありませんが、航空の脱炭素化という最難関分野を前進させる象徴的な取り組みです。廃食油回収といった地域レベルの活動から、国際供給網の構築までを結びつける全体戦略が、持続可能な社会を実現するためのカギとなるでしょう。

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