業界と地域の課題解決へ、
野村不動産物流事業の戦略公開
~3か年累計投資8,000億で示す、
「幸せと豊かさを最大化するグループ」への道すじ
2024年問題や法改正など、激動期を迎えている物流業界。荷主、物流事業者、運送会社それぞれが、これまでの事業のあり方を大きく見直す動きも活発化しています。
野村不動産グループも、物流革新のキープレイヤーとしてその動向が注目されています。2025年4月には、2026年3月期から2030年頃を対象とする新たな経営計画を発表しました。今回の計画は、2030年ビジョン「まだ見ぬ、Life & Time Developerへ」の実現に向けた「長期経営方針」と、2026年3月期から2028年3月期までの「3か年計画」で構成されています。
Landport開発への積極投資を通じた社会貢献
5月に開催した物流事業の戦略発表会では、この3か年計画において物流事業が注力領域における成長事業の1つに位置付けられていることを示し、社会情勢の変化や「ポスト2024年」を見据えた事業戦略の方向性が説明されました。
物流事業戦略発表会には、野村不動産 常務執行役員 都市開発第二事業本部長 井戸規昭氏、都市開発第二事業本部 物流事業部長 稲葉英毅氏、都市開発第二事業本部 物流営業部長 和田吉朗氏が登壇。
井戸氏はまず、2006年の物流事業参入以降、2025年3月末時点の開発実績が計45棟、約70万坪に達し、累計70社以上のテナント企業の物流を支えてきたことなど、これまでの足取りを総括し、続く3か年計画の概要を解説しました。
変化の兆し見せる市場で、積極投資による事業量拡大と持続的成長目指す
井戸氏は物流不動産を取り巻く環境について、「ECの成長や人手不足、それに呼応した政府の法改正などの動き、製造業の国内回帰や建築費高騰などの経済面や、DX技術の進歩など、さまざまな環境変化を受け、新たな変革フェーズに入っている」と分析。首都圏のエリアごと、あるいは地方エリアごとに空室率の差が発生しています。一部エリアでは供給が需要を上回る状況ですが、今後も年間約50万坪程度の需要は継続するとして、社会の物流ニーズに的確に応えることが重要な使命と語ります。
物流戦略の柱となる高機能型物流施設ブランド「Landport」シリーズの開発では、2026年から2028年3期までの3年間で15棟、総延床面積約130万平方メートルを開発。投資総額としては約3400億円、前の3か年の2.6倍にあたる開発がすでに決定しています。これによって、物流施設の累計開発・運用棟数は60棟、延床面積約365万平方メートルを見込みます。3か年の累計投資額は8000億円を予定するとともに、さらにその後も「毎年1000億程度の新たな投資を着実に実行」(井戸氏)し、31年度までには、累計で1兆3000億円に及ぶ投資計画を明らかにしました。
こうした積極投資で目指す具体的な戦略については、稲葉氏が引き継いで解説しました。稲葉氏は戦略の中核として『マルチテナント型物流施設の開発に注力』『地方エリアの開発を加速』『連携・共同化により課題解決を伴走』というテーマを提示します。
『マルチテナント型物流施設の開発に注力』
物流要衝への施設提供で多様なニーズに対応
稲葉氏は、「消費地の近接エリアや、幹線道路の結節エリア、いわゆる物流プライムエリアに開発を集中。延床面積で30,000坪以上のマルチテナント型施設開発に注力投資していく」と語ります。
具体例として、首都圏エリアの「Landport野田」(千葉県野田市、2026年3月竣工予定、延床面積33,161坪)、「Landport柏Ⅱ」(千葉県柏市、2026年夏竣工予定、延床面積33,508坪)、中部圏エリアでは「Landport東海大府Ⅰ」(愛知県東海市・大府市、2025年10月竣工予定、延床面積74,557坪)、「(仮称)Landport東海大府Ⅱ」(同、2027年2月竣工予定、延床面積40,263坪)、関西エリアで「(仮称)Landport京都伏見」(京都府京都市、2027年5月竣工予定、延床面積39,293坪)、「(仮称)Landport北伊丹」(兵庫県伊丹市、2028年3月竣工予定、延床面積33,456坪)を紹介。いずれの施設も延床面積10万平方メートルを超える超大型物件であり、積極投資を通じて新たな物流の構築に貢献する姿勢を示します。
また、多様化する物流ニーズに応えられる施設計画でも、物流課題の解決を後押しする方針です。輸配送の迅速化に適した平面フロア利用、両面バース仕様などの施設提供や、フロアごとに対応カテゴリーの異なる商材に対応するフロア別カテゴリーマルチ型物流施設もLandportの特色です。マルチテナント型らしい利便性・柔軟性と、BTS型らしい専門性との良いとこどりといえるような施設開発では、例えば、低層階に冷凍冷蔵施設を完備し、上階は定温ドライとした3温度帯センターなどを提供し、物流再編の選択肢を広げます。また、1,000坪台の小規模区画を用意することで、物流事業者、スタートアップや成長企業などによるマルチ型利用を促し、季節波動などに賃貸借区画の増減などで柔軟に運用できるような環境も整えます。
『地方エリアの開発を加速』2024年問題に対応する拠点提案と地域活性化
さらに、これまで首都圏を中心としてきた施設開発を、地方の主要エリアに広げていくことも、主要戦略の1つです。中部圏ではこれまでの2棟から4棟に、関西圏では3棟から5棟に拡大。九州エリアでは、「Landport福岡古賀Ⅰ」(福岡県古賀市、2027年4月竣工予定、延床面積約25,978坪)「Landport福岡久山Ⅱ」(福岡県糟屋郡、2027年10月竣工予定、延床面積6,365坪)などが予定されており、これまでの1棟から6棟へと積極開発が行われます。加えて、これまで施設提供のなかった東北圏でも2棟を開発。「Landport仙台岩沼」(宮城県岩沼市、2026年2月竣工予定、延床面積7,807坪)は東北エリアの第1号物件、「Landport北上」(岩手県北上市、2027年8月竣工予定、延床面積12,016坪)は北東北エリアへの輸配送拠点となることが期待されます。
稲葉氏は、「2024年問題を機に、ドライバーの運転時間の上限も厳しくなり、北東北エリアでは荷物を運べない事態が現実になりつつある。また、EC需要はまだまだ拡大し消費行動も変化し続けている一方、消費財だけではなく生産材の保管・供給需要も、製造の国内回帰などによって高まると想定している」といいます。九州や東北、関西、中部の物流適地での施設開発は、2024年問題や、自動車や半導体などを中心に変化する生産動向に対応する拠点戦略見直し、地域の雇用創出や経済の活性化なども視野に入れた事業展開であると明らかにしました。
『連携・共同化により課題解決を伴走』
テクラム、CLOサロンが育む、物流革新への連携
施設提供だけでなく、その効果的な運用に関しての積極提案も、物流事業戦略の重要な柱です。「連携と共同化による課題解決への伴走」(稲葉氏)をテーマとして、テクラムによる自動化、人材戦略支援、さらに地域連携の強化にも注力していきます。
ロボティクスやICT、自動搬送機器など物流関連技術を持つ企業各社と連携し、個社では解決できない省人化、効率化の解決を目指す企業間共創プログラム・テクラムは、2021年の立ち上げから2025年5月までの間で、参加パートナー企業116社の規模に拡大しました。テクラムの効果検証拠点である「習志野Techrum Hub」で開催しているデモ会への来場企業数は今年3月時点で421社に上るといいます。具体的なオペレーション提案に至った件数も153件に達するなど、2年前の実績からは15倍以上の急増です。参加パートナー企業の増加は物流提案の増加に直結し、さらなる自動化推進への理想的な循環へとつながることが期待されます。
テクラムの推進は、物流業務の最前線の施設提供者だからこそできる物流貢献の1つといえます。物流施設を繋ぎ目とした企業連携やソリューション連携など、野村不動産がその中心となって積極的な提案や解決への貢献を目指します。
さらに、今後の物流業界を牽引するCLO(物流統括管理者)体制の構築支援に向けた活動を展開し、CLOたちの共創、連携が醸成される場作りにも、積極的に関与していく姿勢を示します。CLO活動を支援するための実践的コミュニティ「CLOサロン」の立ち上げによって、これからの物流リーダーによる業界革新をサポートするための勉強、交流の場を確立することが目標です。
また、より現場に近いリーダー層、若手層に対しては、テクラムの物流ソリューション活用を題材にした物流課題抽出や改善策検討を促す学びの場として、「Techrumアカデミア」を2025年6月ごろに始動する予定です。自動化ソリューション導入を題材にして、現場目線でのDX提起能力を持つ人材育成も期待されます。
・地域連携を目指し、市場の先頭で次代の物流を開拓する使命
施設というハード面にとどまらず、課題解決提案や、地域貢献などソフト面の価値提案にも注力することを明示した野村不動産の物流戦略。それは、人々の「幸せ」と社会の「豊かさ」の最大化を追求するという野村不動産グループのビジョンを体現していくものです。物流事業戦略においては、地域連携、地域共生への取り組み、エリアマネジメントの強化にも重点をおき、幸せと豊かさの創出を目指します。
この日の発表会では2025年3月に竣工した「Landport横浜杉田」(横浜市金沢区)のエリアマネジメント成功例が紹介されました。同施設の竣工式典に多くの地域の人々なども参加し、地域防災拠点となる開かれた物流施設像、地域に貢献する施設のあり方を明示。地域連携の形を提示した今回の実績を機に、現在開発中の「Landport東海大府」、「Landport柏Ⅱ」、「Landport野田」などでも、エリアマネジメントの取り組みを拡大していく予定です。
また、このLandport横浜杉田では、入居企業がシェアリングで運用できる自動倉庫を既設設備として用意し、次代の物流のあり方を提案しました。ポスト2024年においては、トラック自動運転などの実装に向けた検証も進んでいるだけに、インターチェンジ至近の施設開発などを通じて、絶えず最新型へと更新を続ける物流を、施設から支えていく目標を掲げます。
2023年をピークに物流施設の供給数は落ち着きを見せ始め、市場のあり方やプレイヤーなども今後変化すると予想されます。そんな市場の中で、戦略と実行力の差が事業成長のカギとなることを示唆し、物流不動産市場のトップグループの座を譲ることなく、人と社会に貢献していくことへの力強い決意表明となりました。